ついんず
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「珍しい構え方をするんだな」
コートに入って晶が構えると乾がそう言ってきた。超前傾姿勢でラケットと手が地面につきそうである。
『あぁ、うちの相棒がこう構えるからな。きっとうちもこれがやりやすいんだろうと思って』
「…亜久津仁か」
『流石貞治!やっぱり知ってたか』
「直接プレーを見たことは無いけどね。山吹の怪童の話くらいは聞くさ」
晶が、仁に勝ちたいんだというと、なるほどと乾が頷いた。多分わかってくれたんだろう。あいつは、仁は天才的なセンスと抜群の判断力、それから人よりも優れた筋肉を持っている。それ故に仁は練習をせずとも一流の動きが出来てしまう。簡単に勝ててしまうのだ。だからテニスに興味がない。本当にもったいないと思う。晶は仁にテニスを本気にさせたいのだ。自分にダンスがあるように。あいつが本気でやれば世界だって狙えると思う。
『うちの大事な片割れだからね。やらないで後悔するのだけはして欲しくねーのよ』
昔、一緒にテニスやった時のあいつは楽しそうだったから。
「…?何か言ったか?」
『いーや、早くやろうぜ!』
パコンパコンと球を打ち合っていく。多少打ちにくいコースに打っても難なく返せるようだ。こりゃあ思ってたよりもずっと上手いな…。乾はポツリと心の中で呟くと一気に球の強さを上げた。
『うおっ!びっくりした…!』
いきなり上がった球速に驚きながらも返してくる晶。まだ余裕そうだ。
「思っていたよりずっと上手いな」
『本当に?』
「あぁ。次から本気で行くぞ。だから晶、お前も本気をだせ」
『…了解!』
2人を纏う空気がほのぼのとしたものから張り詰めたものに変わった。真っ直ぐに乾を見詰める晶の眼光は鋭く、彼女の相棒であるあの怪童を思い起こす。これがテニスではなく喧嘩だったら間違いなく俺は戦う前から負けを認めざる得なかったな。眼光の威圧に乾は軽く身震いした。しかしここはテニスコート。彼女に負ける気はしない。乾は高く高くトスを上げた。
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