ぷよぷよ小説
□紅の記憶
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あの時の記憶、それは紅が全部抱えていってしまった。
僕は抜け殻だ。
知らない、何も・・・
でも、何故?
どうしてこんなにも虚無感が僕を満たすのか。
欠けている―僕が僕ではないと身体が本能が僕に訴えてくる。
「紅は何処にいった?」
無意識にそう呟いていた。
「シグ、どうしたの?」
大きな赤ぷよ帽を頭に被った少女アミティは不思議そうに覗きこんできた。
「どうもしないよ」
僕は大丈夫、と微笑み返し、右手をアミティの帽子に優しく乗せた。
「・・・・・・でも左目だけ泣いてるよ」
アミティにそう指摘されその時初めて左目だけ泣いていることに気づいた。
「本当だ、おかしいな。泣くつもりなんて」
自分の赤い左手で触れるとその涙は血のように見えた。
「血・・・」
「え?」
「ううん、なんでもない。アミティ。僕はね、少し夢を見てたようだ」
「夢?どんな」
アミティは気になったのかその先を聞きたがり、僕は赤い左目をさすりながらその先を語った。
「昔、僕達は一つだった。大きな力を持っていたがために人々から僕達は恐れられていた。それが僕達にとって苦痛でしかなかった。なぜなら僕達は人間と仲良くしたかったからだ」
夢の話をすると身体が、心がズキズキと痛む。
だが指命を帯びたように僕は話を続けた。
「僕達は人間に対して何も危害を加えなかった。ただ森の奥の寂れた洋館でひっそりと本を読んで過ごしていた。
・・・それなのに」
「・・・シグ」
怯えたようなアミティの声に僕はいつのまにか怒気の篭った口調になってしまっていたことに気がついた。
「ゴメン、つい感情的になってしまってたようだね」
「いいの、続けて」
「・・・あの日」
これから先を語るのは胸が苦しい。でもどうしてもアミティには知っておいて欲しい、そんな気がする。
だから僕は口を動かす。
「いつもと同じように本を読んでいた僕達の元に人間が何人か訪ねてきた」
赤い左目が少しだけ痛む。
「今まで人間なんて誰一人として訪ねてこなかったため僕達は警戒してその人間達の行動を監視した。するとどうだろう。その人間達は僕達を退治しに来たのではなく、ただ一冊の本を置きに来ただけだった。
僕達は人間が立ち去ったのを確認すると人間達が置いていった本を手に取った」
身体が小刻みに震え出している。
「・・・本には人間達からの手紙があった、『おもしろかったのでこの本をあなたにあげます』とね。
僕達はそれを見て心が躍った。あの人間達が僕達にプレゼントしてくれるなんてね」
左手が震える。
「僕達は喜んでその本を開けてしまった。人間達が仕組んだ罠だと知らずに」
「・・・罠」
アミティは驚愕の表情をした。
「そう、罠だった。
その本を開けてしまうと・・・僕達は分かれてしまったんだ。
紅は身体から離れて本の中に入っていった。それを遠目に人間達が見ていたのに僕は気づいていた・・・でも何もしなかった、僕は人間が好きだったから。でも紅は違った」
赤い左目が淡い光を放った。
「紅は人間を憎んでいた。封じられる瞬間、紅が叫んだのを虚ろな意識の中で僕は聞いていた。
『やはり、人間は我々とは相容れないのだな!!よいだろう、貴様達がそのつもりなら私は貴様達を滅ぼしてくれる』と紅は叫んでいた」
また左目から涙が溢れてきた。
「・・・そこで夢は終わり、多分昔の話だ」
「悲しい・・・ね」
いつの間にかアミティも泣いていた。
「紅は今も本の中で人間を憎んでいるだろうね。暗く狭い本の中で」
「・・・シグは?」
空が真っ赤に染まる、紅蓮のように・・・
その中で僕は呟いた。
「・・・・・・・憎んで、ないよ」