雪頭の紅梅。


□永久の弥生。
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「清十字団?」

首を傾げていたのは、国語の先生神村千代。


黒いぴしっとしたスーツに、纏めた黒髪。
千代はうぅんと考え混んでいた。


「でしたら、清継君が部長で私が顧問になりましょう、そうしたらそのパソコンの持込を許可しますね」


問題は清継君のパソコンだった。千代先生に相談をすると、部活にしたらいいと言われてしまった。

勿論二つ返事でオーケーをしていた。



「さ、この部屋を割り当てましょう〜」


鍵を渡して見送ると千代は一息ついて、机に向かう。





流れすぎた時にため息をつく。

空を見上げ小さく微笑む。




私の力は弱まる一方。
時々"以来"をするけど、もう私を知る人は減った。


「ちょっと身体が…重いかな」


ふぅと俯せ、千代は目を閉じる。
江戸に…いぇ、東京にもう私を知る人は殆ど居ない。



「千代姫イケマセンデス」

ついつい、足を動かす人形。


「帰リマショウ」


「だめよ…私は気に入ってるの…」



私を頼る子供達は減った。



「千代先生!大丈夫ですか!?」



ふと顔をあげると雪女が居た。
青田坊と。
慌てて先生の顔をつくる。


「大丈夫よ、少し身体が重いのよ〜あぁそうだ…」

プリントを雪女に渡す。


「奴良君にお願い出来ないかしら」

「え…でも帰ったんじゃ」

「あら、国語準備室に多分居るわ確か―…清十字団?だったかしら部活の集まりみたいよ」

「若が部活に!?」

「はい、二人とも部活に入るならちゃーんと紙に書いて私に下さいね。」


入部届けを渡す。


「あまり寄り道しないで帰るんですよ〜?」

「はぁい」

「はい、お勤め…じゃねぇ失礼しましたァ」


二人を見届け、ツンッと玖を突く。



「玖…帰ろうか…背中のっけて」

「カシコマリマシタ」


ふ、と優しく笑いぬいぐるみを抱える。

残る生徒に声をかけながら、国語準備室に向かう。
賑やかな清継君の声に千代は小さく微笑みながら開ける。




「今日はお開きになさい」


「あ、千代先生っ丁度良かった…」

「清継君、お開きのお時間よ?」

妖怪がどうのこうのと暴走しだす清継君達を見て呆れていたメンバーを見て「あ!」と言う。



「清継君、神隠しって知っている?子守唄のような甘音で子供を迷い込ませ永遠と、死に至るまで出られない、話し」

「知っていますとも!」

「なら、神隠しの妖怪は元は土地神で前に土地神に拾われた人間だった事は?」


「そう、なんですか?」

「そう、土地神に育てられた人間はある日村人に土地神を殺され土地神の血肉を喰らい妖怪になった、けど土地神には殺しはするなと言われていたんで、迷い込ませ死なせる事にした…」

「人間が妖怪に?」

「そうよ〜土地神を喰らった人間は、里を出て別の土地に移り、またその場所を出て、江戸に住まわった……なんて話しもあるのよ」
「先生…まさか…それって…その神隠しの妖怪が居るの?」

「かも、しれないわね?」

「ですが何故妖怪は言い付けを護ったのですか?妖怪なのに」

「きっと妖怪は…誰かを見守る為に転々としていたのかもしれないわね…」

「千代先生も妖怪とか、興味あるんすね」

「えぇ、妖怪は好きよ。だから国語教師になったんですもの」



女の子達は振るえて帰ろう!と引っ張って帰っていた。
それを見送ると、窓の外に烏天狗を見つけ目が合ってしまう。

や ら か し た !



窓の外に玖を投げ飛び乗る。








「千代様ぁぁああああああああああ」





「ひぃぃいやぁぁああっ」


「お探し致しましたぞ!千代様!」







仕方ないと千代の口にしっぽで酒を突っ込む。
ごくごくと飲んだ千代を見て玖はため息をつく。
昔から酒を飲むと素直になりすぎる。



「千代様、本家へ!千代様」

「あーハイハイ。今は梅若丸が居るだろうに、殺されてはリクオ様が悲しむじゃろぅ?」

「こっそり進入するのは得意ではありませんか」

「いやだね、若兄様と一緒にしないでおくれよ」

「総大将がお待ちです!!」

「いやじゃ、梅若丸に会うにぁちと覚悟がおる。仕度もせにゃいかん…とゆうより、兄様の約束を護って江戸に住まわっておったのに…遅すぎるんじゃ」

「…それは―…ですが見つけたのですから、私に権利はあります」

「ふむ、まぁそれもそうかのぅ」

「姫!!貴方は次死んだら本当に消滅致しますよ!?」

「そうなんじゃ、ほれ、諦めとくれ烏天狗殿」


「そうは参りません!解りました、牛鬼様には手出しはさせません。ですからどうか」

「黒田坊はおるか?」

「…ぇ、えぇ」

「そうか…よし、久しぶりに若兄様に会おうぞ!玖」

「……次は…私も貴女と一緒に逝きましょう」

「しょうもない子じゃ…玖…すまぬな世話をかけた」







苦笑いをする。
千代お酒を口にしながら玖の背中に寝そべる。

烏天狗が危ないだどーのと騒ぐ。
懐かしい賑やかさに目を閉じる。





門を潜り中庭に下りる。

烏天狗が人を掃おうとするが、正面に既に梅若丸と若兄様。
玖は膝丈ぐらいに小さくなり傍に擦り寄る。



「やぁ、麗しいのぅ若兄様」

「千代か?」

「そうじゃ、烏天狗に見つこうてしもうたからのぅ」


辺りを見渡す。

「千代、俺と盃を交わせ」

「ほぅ、直球と来たか、なにを焦っておるんじゃ、若兄様や」


玖が大きくなり座り込み。
背中に座り抱き着く。
愛おしむ様に優しい瞳を見せる。



「ふぅん…成る程のぅ……また…私が死んで見ろとか」

くっくっくっと笑い鬣に顔を埋める。


「のぅ、若兄様…私はもう……あとは消えるだけじゃ」


「……」

「もう、奇跡は起こらぬ…のぅ玖…」

「若兄様、千代姫を元の村に帰して頂きたい」

「…こらこら玖、我が儘ゆぅんでない……妾は死ぬ為に生きてるだけ…昔からそう、かわらぬ事じゃ……否はせぬ…怖いのは一瞬……そうじゃな、お前はやはり怖いか」

「っ!姫!」

「くくっ…玖……む?…なんじゃ、若兄様」

「力が弱まったか

「仕方ないだろうが…元々妾は強くないといっとるじゃろう」


そっと玖の傍に行き千代に腕を伸ばす総大将。
千代は少女の様に微笑む。


「お前は護らせない…だから…不安じゃ」

「護られたくないんじゃ、じゃが…少し…若兄様……」



飛びつく千代。
抱き着くと嬉しそうに微笑む。






「…若兄様……愛しておるぞ…」



くたりと倒れた千代。
酷い熱が上がっていた。

玖がそっと牛鬼を見据える。



「二胡、お持ちしていらっしゃいますよね」

「あぁ…紅のだな?」

「若…それを貸して頂けますか」


困ったように玖がマユを下げ金色の前髪を傾けた。
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