キッド海賊団

□キッド
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 とある島。

ならず者が集まる夜の酒場に一人、場違いな少女がいた。

 なにしろこの荒れ時。

酒に任せて騒ぎ明かす客を一切無視して、静かにグラスを傾けるこの少女。

 大人しげな顔に知的なメガネまでかけて、一見すれば頭と品の良いお嬢様。


 そんな、入る店を間違えたとしか言いようのない容姿に加え、場違いなのにはもうひとつ理由がある。









 泣いていた、静かに。




 時折、細い指で涙をすくい、そしてそれを紛らわすかのように上品に酒をあおる。




 男としては、最強の獲物となる要素が完璧にそろっていた。


 しかし、当たる男は皆、ことごとく玉砕。


 一人、店の隅で深い空気を醸し出す、そんな少女だった。















 月が高くなり、新たな客が店に入った。









 ふいに店内が静まり返った。たった今入ってきた男の正体を認めたからである。




「ゆ、ユースタス……キッド……」




 店の一人が、思わずその名を呟く。



 今や世界に名を轟かせる、新生海賊団。いわゆる『億超えルーキー』の一船長。



 ユースタス・キッド。




 世評では残忍で名の通るこの男。

 普通の人間は、なるべくお近づきにはなりたくない存在だ。


 ましてや、こんな狭い店で暴れられたら一溜りもない。


 店中の視線を集める当の本人は、空いている席を探してぐるりと店内を見回す。






「やはり、どこも満席だな」

「この時間帯は大体そうだろうよ」





 キッドの後ろにつく部下の数人が呟く。


 キッドは構わず、無言で店内へ足を踏み入れた。



 大方、気まぐれで選んだ客を殴り飛ばして、席を確保するつもりだろう。


 店内にいた客達は、絡まれるまいと慌てて目を逸らし、不自然に自然体を振舞った。


 再び店内に、(虚勢ではあるが)いつもの賑わいがもどる。






「―――」






 ふと、キッドが一点に視線を留める。





 店の隅、黙々と酒を飲み続ける、例の少女だった。





 面識があった。







 近づいて、声をあげる。





「ガキが、夜中に来るような場所じゃ無ェぞ」





 男避けにそっぽを向いていた少女は、振り返る。







「・・・・・・」





 声をかけてきた男の姿を認めた。

 一方のキッドは、眉を潜める。

 少女の頬が、濡れていた。





「・・・・・・しかも泣いてんのか。

 狙われっぞ、男に」




「再三声をかけられました」




 泣きはらした目で睨み、鼻声を上げる。




「だいたいテメェ、来るならせめて、夜につり合う格好でこいよ。

 なんだその清楚な服は。

 そしてそのメガネはタブーだ」





「お金がありませんから」




「じゃぁ、家で泣け。俺が気分悪ィ」



「家、ありません」



「まだ買ってねぇのか」



「これから買うつもりもありませんし。

 学費で精一杯です」



「どこで生活すんだ」




「素性がばれるまで、外でブラブラします。

 親切な方はよくおごってくださいますし」




「それが狙われてんだよ」




「では、いっそ身売りでもしましょうか」


 自嘲気味に、少女が笑った。













































「おれが買おう」







 少女は弾かれたようにキッドの方へ顔を向ける。




「俺が買う、船に乗れ。

 しっかり働いてもらおうじゃねェの」







 キッドが不適に笑う。





 しばらく少女は目を見開いたまま固まっていたが、やがて、ふっと頬を緩めた。


































「お世話になります、キャプテン・キッド」










 この二人にどんな面識があったのかは、ご想像にお任せするとして……




 かくして、少女はキッドの仲間に。




 そして恋仲に発展するのは、もうほんの少しだけ、後の話。
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