暖かな気温


□こんにちは太陽滅びろ
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太陽が燦々と光を落とす昼。からからとした空気で不快と感じる様な其では無いが、単純に暑いものは暑い。日向に居れば忽ち熱射病にでもなってぶっ倒れそうな位日差しが強い。此の気温のせいで温くなった風が連れてきた、潮の匂いと甘い果実の香りが頬を撫で、鼻腔を擽る。海や森に行けば涼しいだろう。少なくとも王宮の庭の中でも大きい部類である此の木陰よりかは。只何分移動中休むことのない太陽に光を浴びせ続けられることを慮れば行動も窮するというもの。まぁ、そんな難しいこと云々よりも面倒臭いって気持ちの方が勝っているし、どちらかと言えば大半を占めている。寧ろ十中八九面倒臭いが理由。今寝転がっている状態から起き上がることすら至極倦怠感を生む。
食欲が失せることはないが食べる量は普段より少しばかり減っている。発汗も多く気持ちが悪い。夜は寒いわけじゃないけど、朝昼に比べれば気温の違いが著しく、余計に寒暖を際立たせていて一段と寒く感じ、身体に疲労感が生じる。

『夏バテかねー?』

とは言っても、年がら年中一帯の気温である此処に四季という概括は無く、熱帯と言うに相応しい気温、気候である。私は此処に来て数えてなかったけど約数ヶ月。一度も雨が降ってるところを見ていない。
矢鱈と言葉を羅列したけど何が言いたいか直言すれば、単純明快只一言暑い。長い事適当並べて偉そうに抜かしておいて単刀直入に端的に述べれば暑いのたった其だけ。でも逆に言い換えてみれば其だけ暑いって事。

『溶けるー』

あ"ー寧ろ溶けれたらいいのに。木の枝に寝そべって葉の隙間から差し込む光を目に手を当てることで遮る。でも肌と肌が接するところが熱くて直ぐに離す。こーゆう時長い髪が鬱陶しくて堪らない。木に面してる背中は空気が通らず蒸れる。衣擦れする服も気詰まって仕方がない。目を閉じてゆっくりと息を吐き、先程と同じ言葉を無意識に繰り返す。

『融ける』

「大丈夫か?」

急に下方から声が掛かり、驚いて体勢を崩し、自分が身を預けてる細い枝から落ちた。が、枝に脚を掛けて宙ぶらりん状態になって助かった。あっぶね落ちるとこだった。背筋が一瞬凍り冷や汗が流れる。身体を振って勢いと腹筋の力で戻し、枝に座って下を見れば、腕を組んで此方を見上げるドラコーンさん。

「すまない、驚かせてしまったな」

『いや、大丈夫。此方こそ悪かった』

馬鹿なこと熟考してた私が悪いし。つか気配に気付かないってどんだけ考えてた訳。木の上にいる為にドラコーンを見下ろす形になり、少しばかりの優越感と共に違和感が胸を占め、地面に下り立つ。

「久し振りだな」

『そうだねー。謝肉宴の時も会わなかったし。で、どうしたの?』

「いや、木からお前の声が聞こえてな。暑いのは苦手か?」

高くなったドラコーンの顔を見上げると頭を撫でられる。此の質問が飛んでくるって事は聞いてたんですね。いやぁお恥ずかしい。でもまぁ、ドラコーンさんに会えたしいーや。にしても、暑いのは苦手か、か…。そりゃ、

『苦手です』

「はは、そうか」

『逆に問いたいんですけど、ドラコーンさん暑くないの?』

そんなびっちりと服着込んでんのに。私、ゆったりとした薄着一枚に文官の服羽織ってるだけなんだけど。其で私暑いだなんだ文句垂れてんだけど。

「私は暑くない」

……私が忍耐力無いのか?我が儘なんかなー?自分の感情に疑問を持ち首を傾げる。一人悶々と悩んでいると、ドラコーンは笑って再び頭を撫でた。

「此処に来たばかりだから身体が慣れてないのだろう。急いても仕方がないさ」

やっべ、やっぱかっこいーなドラコーンさん。私そんな考え方出来ねぇわ!感心感服っす!心中で然う叫んでいれば、王宮から呼び掛ける声が聞こえた。

「おーい!」

「ヒナホホ殿」

「よう、こんなとこで何やってんだ?」

『暑い談義』

ヒナホホは手を降りながら、木陰まで歩いてきた。いやぁ元気いーねー。元気だねー。笑顔輝いてるねー。相変わらずでかいねー。…木陰に入りきるかな此。

「暑い談義?」

当たり前だろうけど私の言った言葉の意味がわからなかったらしく鸚鵡返ししてくる。あー、木陰収まらなかった…。半分出ちゃってます。横に並んだら会話出来ないことも無いけど変だし。

「夜尋殿は暑いのが苦手らしくてな」

「ああ〜成る程な!オレも暑いのは苦手なんだ!北の方で育ったからな」

『えー…寒いのも苦手』

好むのは秋です。春より温いし、夏より涼しいし、冬より暖かいから。其に静かだし、夜長だし、蚊いなくなるし、何より食べ物が美味しいし。そうかそうかと笑いながら頷くヒナホホとドラコーン。其の場に三人で座り、会話してると父を呼ぶ子供の声が聞こえた。

「父ちゃん!オレら遊んでくる!」

「おー、そうか!気ぃつけろよ!」

ヒナホホの子供らしい少年は彼の子供と言われずとも思わず納得して頷いてしまう程でかかった。しゃがんだ儘だが尺度を目で測り、自分と比べてみる。ヒナホホは息子達の背を笑って見送る。

『そーいやーヒナホホさんって子供一杯だったね』

「そーだぞー!因みに今のは夜尋と同い年だぞ?」

『へーー・・・・・・・え?』

軽く聞き流……え?同い年?えっ、ちょ…でっか!だって、目測が誤ってなければ私彼の腰ちょっと上くらいしか身長無いと思うんだけど。うへぇ…分化の違い。

『父ちゃん…ねぇ…』

「…夜尋の父ちゃん母ちゃんはどんな人だったんだ?」

無意識の内に小さく漏れ出た言葉に驚いていると、ヒナホホがそう聞いてきた。多分二人共聞こえてたんだろう。…親。

『…さぁ?わかんない』

「どういう意味だ?」

『会ったことないし』

会ったことない。見たことない。知らない。もしかしたら知ろうとしなかっただけかもしれないけど。

「…御両親は居ないのか?」

『そうだね。物心ついた頃には既に宮に一人だったし』

「そうか…」

『まぁ、皆優しかったし。親は居なくとも家族は沢山いた』

親なんて存在、私には無かったけど、長であるババ様も村の皆も優しく接してくれてた。文字の読み書きも体術、歴史も教えてくれた。ともあれ親が居なくても私にとっては村の皆が家族だった。村の皆と過ごした毎日を思い出して口角をあげて笑う。








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