暖かな気温


□寝て起きたら…はい…
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一昨日昨日に続いて今日も朝早くから起こされた。いや起こされたって表現は正確じゃない。自分からこんな早朝に目を覚ました。違う此も正しくない。訂正。自らの意思では無いが目が覚めた。しかも寝惚けるでもなく二度寝を求めるでもなくぱっちりと。自他共に寝汚いと認めてる私が、だ。私は身動きが取れない目が覚めた原因足る現状況が夢であります様にと願いつつ恐る恐る横を見て瞬時に天井に視線を戻す。願いは望みもなく打ち砕かれた。

『えー…』

確か昨晩は謝肉宴で、お開きになった後も暫くの間シャル達と飲んでたんだよな。酒も減り、酒盛りも酣といった時分にジャーファルが現れて、呆れた様な溜め息の後私を部屋まで送って戻っていった。うんうん。バッチリ覚えてるよあまり酔ってなかったし。でも疲れはあって寝衣に着替え、ベッドに横に成れば直ぐに睡魔がやってきて抗うことなくあっという間に瞼を落とした。で、今に至ると。いや、至ってねぇよ。いや、至ってるけど問題点には至ってない。

窓を見れば未だ白んできてすらいない紺の空。星も輝いてる。壁付近の床に窓の形をして落ちてる月光以外光がない静かな寝息しか聞こえない部屋。然う寝息。私は今起きてるから私のものではない。そして私以外の温もり。私の身体に巻き付く私のじゃない腕や絡まる脚。耳に掛かる熱い息。軋むベッド。窓とは逆、廊下側の方に顔を向ければ、目一杯視界を遮る胸板。上に顔をずらせば普段起きてる時とは違う無邪気で純粋な寝顔の、一片の歪みもない憎たらしい程整った顔。下は敢えて見ないが掛け布団に覆われた下半身もどうやら衣類は纏ってない様子。

・・・・・此処、私の部屋ですよね?え、私の部屋ですよね?何故シンが?何故衣服を纏っていないシンドバッド王が私のであろう部屋に居て、私のであろうベッドに横になって、此の部屋の主であろう私よりもぐっすりと寝てるんでしょうか。普段は感じない不自由さと暑い朝昼と違い夜は求めてすらいる温かい温度に疑問を持って目を開ければ此だ。叫声を上げなかったこと誉めてほしいものです。

しかしまさかジャーファルが部屋を間違える訳がないし、つか部屋間違える以前に私は緑射塔、シンは紫獅塔でまず塔が違うし。畜生此が侵入者とかだったら悩むまでもなく撃退するのに。なんで此処にいらっしゃるんすかマジで。なんで此処で寝てらっしゃるんすか起きろや。身体に巻き付いた腕や脚が邪魔で身動きが取れない。押してもお前本当に寝てんのかって位びくともしない。酔ってるのか声を掛けても簡単には起きない。諦めようにも此の体勢は寝るにはキツい。後せめて服着てほしい。

『シンー』

こんなとこ見られたらゴキブリ見るような冷たい目で見られるよー。例えがあまりにも真実味ありすぎてどうしよう。程好く筋肉の付いた胸元を軽く叩いて、声を掛ける。結果目を覚ます処かむにゃむにゃと意味わからんことほざいきやがった上、無い隙間が更に無くなりました。結論相当酒が回って爆睡している様です。いらねんだよそんな事実!身体を捻って窓の外は何時の間にやら空が白み始めてる。するとシンが動いた気配と同時にベッドが軋んだ。起きたかと思って期待して振り返れば違う様子。…此奴本当に寝てんの?寝衣の中に手入ってきてんだけど。首に顔が。

『っつ!?』

え、何今の痛み?噛まれた?え、私今噛まれた?首辺りが痛み力が抜け頭が混乱する。廊下からバタバタと足音が聞こえて、其が段々近くなる。…嫌な予感する。めっちゃする。

「夜尋!今日魔法に、つい…て……」

静かな朝に大きく響くドアの開閉音。嫌な予感当たった…。シン越しにドアを見れば、笑顔の儘固まって微動だにもしないヤムライハ。おー一時停止。目が合ったと思えば、笑顔の儘ドアを開けたときとは逆にゆっくり音を発てないように閉めて出ていった。おおー巻き戻し。そしてドアが閉まる音と共に壁越しでも聞こえる大声で、



「夜尋が!夜尋が!!!ジャーファルさぁあああんん!!!!」

…死んだな。御愁傷様。大声も喧しい足音ですらもシンは起きない。不動ですね。あー私に平穏な睡眠は訪れないのか。遠くから聞こえてくる此方に向かってくる足音と気配。

「シン!!」

そんなに乱暴に開けたらドア壊れんぞ。怖い顔で近付いてくるジャーファルの歩一歩が静かな部屋に嫌に響いて聞こえる。ベッド付近まで近付いてきたと思えば、其でも起きないシンの首元を掴んで私が巻き添えにならない様に支えてからベッドから落とした。え、落とした?マジか容赦ねーな。大分凄い音鳴ったぞ今。ゴンっていったもの。

「いっつつつ…え、ジャーファル君?」

「おはようございます。シン…何してんですかアンタ」

意味がわかってないのか態となのか首を傾げ困惑してるシン。そんなシンに容赦なく毒を吐くジャーファル。私は身体を起こしてベッドから下り、着替えだけ持ってドアの所に顔を青褪め立ってるヤムライハを部屋の外に連れ出す。巻き込まれない為にもほっとくに限る。

『ヤムライハさん何しに来たんだっけ』

「え…えっと…魔法の話を」

『あーうんうん忘れてた話すって言ってたね』








廊下を歩いて食堂で軽食を貰って黒秤塔にあるらしいヤムライハの仕事部屋に向かう。着いた部屋のドアを開ければ、真っ暗で埃っぽく足の踏み場がない程物が溢れ帰り床を覆っていた。

『…』

「さぁ、入ってちょうだい!」

え、本当に此処?床に落ちた紙を拾いつつ進むヤムライハに呆然とする。不摂生だなおい。どうにか部屋の物を踏まない様に移動して今し方物が避けられたソファーに座れば、窓を開けに行ったヤムが机を挟んで真正面のソファーに座った。

『…此全部魔法具?』

「ええ!凄いでしょう?」

自慢気に笑って応えるヤムライハに気圧されつつも素直に頷く。魔法具に詳しいわけでは無いけど、確かに此の量は凄いとわかる。部屋が埃っぽいにも係わらず魔法具は全て綺麗に管理されてる。よっぽど大切にしてるんだ。

「ねぇ夜尋!夜尋の魔法もう一回、見せてくれないかしら?」

…キラキラと子供の様に笑顔を輝かせて此方を見るヤム。誰が断れますかこんなん。私には無理だね。って言っても室内で打っ放す訳にもいかねぇし…。室内向けじゃないからなあ。渋って、小さいのでもいいかと聞けばヤムライハは何度も首を縦に振った。其を見て指に魔力を溜め威力を最低限まで下げ、風魔法を天井に向けて放つ。私の指から発生した風は直ぐに分散して髪を揺らしたのを見て、ヤムは更に興奮した。喜んで貰えて何よりだ。今の風で机の上に乗ってた紙が床に散らばったけどあんま変わんねぇしいーや。







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