暖かな気温
□改めまして宜しくみたいな
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『やだ』
「いーだろ?やろーぜ!」
『拒否ってんだろ!?言葉を理解しろ』
今シャルルカンに迫られてます。朝の陽射しが燦々と降り注ぐ船員達皆がいる甲板。好戦的な笑みを浮かべたシャルルカンに船室の壁まで追い込まれ逃げ道が無い。船員達は期待にニヤニヤと微笑んで此方を見てるか、二日酔いに顔を歪めてる。何でもいい誰でもいい誰か止めろや!
「なんでそんな嫌がんだよ!?」
『シャルルカンとやったら絶対疲れるからやだ』
腰絶対痛くなる。肩を押して、シャルと壁の間から擦り抜ける。大将が嫌な笑みを浮かべながら近付いてきて私の肩を叩く。
「やってやりゃあいいじゃねぇか」
『ばっか。他人事と思って』
「他人事だからな」
イラッときたから、大将の膝裏を膝で押して膝を付かせる。なんか言った?聞こえないよー。
「ならオレとするか?」
『や、誰とか関係無く行為自体がめんどくさいんだって』
大将の申し出をやんわり断っているうちに真後ろにシャルルカンが現れる。片腕を取られて背中に回され、動けなくなる。痛い痛い。
「俺が満足するまで一寸剣を交わせるだけだろ!」
『絶対一寸で済まないじゃん』
何?俺が満足するまでって。どんだけ自己中!?そう、朝からシャルルカンに追われていた理由は剣の手合わせをしろってものだ。前々から言われてたけど城では何のかんのと逃げてたからなぁ…。船だと逃げようないし。
『はぁ…少しだけな』
王、シンドバッドに貰った剣の柄を握り、鞘から刀身を抜き出す。陽の光に当たって輝く刀身に映る笑っている自分を睨んで、刃をシャルルカンに向ける。剣越しに見るシャルルカンも自らの大剣を構えて笑っている。
「なんだよ。満更でもねぇんじゃん」
『どーなっても知らねー、っぞ!』
どうせやるなら楽しまなきゃ損だからな。止まれねーぞ?剣を構えた儘、先手必勝と一般人より断然速いスピードで床を一蹴りし、シャルルカンに向かう。シャルルカンは驚いて、其でも動揺することなく的確な動作で私の一撃を受けた。其でも今のは結構重いものにしたから腕が痺れてる筈。
「っく、甘ぇ!」
シャルは搗ち合った儘の私の剣を弾いて横に一閃する。私はその場にしゃがみ、直後上に跳ぶ。ガタイも武器も剣技も相手が上で差があるなら、私は敏捷性、俊敏性で補い対応し戦おう。全体重を乗せた一撃を振り落とす。剣で受けたシャルルカンは顔を歪めるも直ぐに弾く。其の勢いでシャルルカンから離れた所に着地し、剣を構え直す。
『あーぁ…楽しい』
「ははっ、いーじゃねーか!」
船員は息を飲み、目を見開き、声を荒げ声援を出す。うんうんいいよな此の空気。おーい、其処賭けてんじゃねぇよ!超元気じゃねーか二日酔いはどうした。甲板には色々な声が飛び交っていて、かなり活気がいい。寧ろ皆煽られてる。
「余所見していーのかよ!」
何時の間にか目の前に迄迫ってきているシャルルカン。うわー、って言ってみたりして。耳障りな甲高い高音が耳に届き、周りに響き、静かになる。直後背後から、地面に何かが落ちる音がなる。
『あー…私の負け』
此で終わり。目を瞑って肩を竦める。背後に落ちた自分の剣を拾って、刀身を振り鞘に納める。伸びをして寝るために船室の屋根に向か…、
「待てよ」
えませんでしたね。つか、行かせてもらえませんでした。何てこったい。やーねぇ。肩をかなり強い力で掴まれ、進めない。誰か、なんて聞かなくてもわかる。
『なん?』
掴まれてる側から振り返って犯人を一瞥すると納得いってない様な、物足りない様な、拗ねている様な色々ごっちゃになった顔をしたシャルルカンがいる。なんでそんな顔してんの。って手を抜いた私が悪いんだけど。だって興に乗って制御利かなくなったらどーすんのさ。王宮内だったら直ぐ治療出来るだろうからまだしも、船ん中だかんね?此処。と心の中で言い訳しつつ、私の肩に乗ったシャルルカンの手を二、三度軽く叩く。
『また今度、城でな』
「……絶対だぞ」
適当に挨拶をして流すとジト目で見られた。段々と甲板にいる奴等が慌ただしく散り散りと動く。其が意味するのは陸、つまりシンドリアに着くとゆうことだ。荷物を纏め、つってもそんなねーけど、船を降りる準備をする。帰還を報せる音を鳴らし、港に船を入れ錨を用意する。
『先行くな』
「は?」
シャルルカンに然う言って、船がきちんと停まるよりも先に縁に乗る。シャルの言葉を背に逸早く飛び降りれば、下に見えたそんなに離れてた訳では無いのに懐かしいと思う顔。……や、一寸待って。下っつか…真下。私の直下する場にいる此奴は、めっちゃ笑顔で両手を広げている。え、来いってか?来いっつってんのか此冗談だろおい。行きたくなくても今の状況はつまりそーゆうことで…。
『ちょ、シンドバッド退けぇえ!!』
「大丈夫だ!受け止める!」
いらねぇ!受け止めんでいいから退いてくれマジで!王様踏み潰すとか私嫌ですよ止めて頼む。あぁ何故こんなゆっくりに感じるんだ。視線をシンから横に逸らせば呆れた表情のジャーファル。おい此方見ろジャーファル私今物凄く困ってる、助け求めてるよへるぷみー。願いを込めて超見てると諦めた様にジャーファルと視線が交わって、アイコンタクトを取る。意志疎通出来た!?
「…マスルール」
「…………っス」
『……へ?…ぅ、あ!?』
急に空中にいる自分の真横に現れた赤い髪に金の鎧。ファナリスの兄さん、マスルールは私の背中と脚裏に腕を入れ自分が想定していた着地点から少しずれた所に降りた。
「えぇ!?」
「大丈夫でしたか?夜尋」
『どっちに対して。旅について?今のについて?』
「どちらもですが敢えて言うのであれば今のについてですね」
「ちょ、ジャーファル君!?」
『大丈夫じゃなかったよ』
「ぇ、夜尋!?」
ですよね。なんて二人でシンのことを総スルーし、顔を見合せて溜め息を吐く。お兄さんにまだ抱えられた儘のせいでジャーファルと目線が一緒なのが違和感拭えない。首痛くならないからいいけど…此何時下ろしてもらえるんでしょうか?
「え、なんで皆王様のこと無視すんの?」
『あ、居たんだシンドバッド』
「さっき会話したじゃん!」
『はは冗談だって。只今シンドバッド』
泣き真似をした顔を笑みに変え、頭を撫でてくるシンドバッド。両手を広げられたから、飽くまで仕方無くと言った体裁でマスルールの腕を軽く叩き下ろしてもらい抱き着く。ジャーファルも頭を撫で、お帰りなさいと声を掛けてくれる。然う斯うしてる内に船が完全に停泊し、人が次々と降りてくる。其の先頭はシャルルカンで私の方に近付いてくる。
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