暖かな気温


□蜻蛉返り
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『なぁシャルルカン…此のでかいの何?』

「南海生物アバレウツボ」

『あばれうつぼ…』




揺れる船の甲板にいる私の目の前に、百歩譲っても可愛いとは言えないでかい生物がいて、何と無く両者啀み、睨み合っている。目合ってんのかわかんないけど。只ほら見られてるし動かないしなんかそんな気がする、みたいな。自意識過剰言った奴誰だ。











―…はい。皆に挨拶して、シンドリアに滞在して一ヶ月。いやぁ早いね。食っちゃ寝を繰り返すつもりが何時の間にか黒称塔の講習に入り浸って、図書館に引き籠もってた。後、銀蠍塔で鍛練を何度か。体鈍っちゃうし。どうやら私は理解が早いらしく、図書館の本は大体読み終えて、ジャーファルのお手伝いをさせられ…したり。シンドバッドに付き纏われたり、付き纏ってたシンが実は仕事サボってて巻き込まれてジャーファルと恐怖の鬼ごっこしたり。ぼーっとしてたり。まぁ…割りとアクティブに過ごしたね。
そしてシンドリアに来る前に居た場所に置いてきた武器や衣類のことを思い出した。

『シンドバッドー!』

「なんだ?夜尋」

「どうしたんですか?慌てて」

思い立ったが吉日。執務室に駆け込んでシンドバッドと、シンドバッドが逃げ出さないように見張りをしてたジャーファルに事情を話す。聞き終えたシンとジャーファルは目を見合わせて答えを出し渋る。うー…そんなに信用ないのか私は。

『逃げたりしねぇよ』

「そうじゃなくてな、1人だと危険だろう?」

「夜尋が前に居た国は最近王が代わり、其の王を反対とする者が多く治安が悪くなっているんです」

……知らんかった。マジか。なんかでけー態度の奴と貧民街が増えたなって思ってたけど。興味なかったんだなぁ。

「ふむ…夜尋を行かせるのも忍びないが、仕方が無いな…。誰か八人将を付けるか?」

『・・・・・・は?』

「そうですね…仕方無いです。明日ならシャルルカンが確か其方方面の商船の護衛をする筈ですよ」

『……いやいやいやいや』

大袈裟じゃない?付き添いとか要らないって。まぁシャルルカンは船のだから直接関係無いけどさ!でも其ってルート多少変えたりするってことだろ?

「じゃあ其の商船に帰りあの国に寄ってもらおう。付き添いが無しなら行かせない。それでいいか?」

『え、ちょ、』

そんな風に言われたらノーって言えないじゃんか!

「ではシャルルカン呼んできますね。夜尋はシンを見張っておいてください」

『は、待っ!』

部屋を出ていく背中に其なりに大きい声で呼び止めるも、虚しく閉じていく扉に背中を見ている視界を遮られ、ジャーファルが見えなくなった―…。







で、其の日の昼に出る船に乗せられて今に至る訳なんですよ。追いかけて止めたかったんだけど、シンドバッドの見張りを任されたから見とかないとだし、まぁいっかって膝の上で寝ちゃったし。拒否権の無さに塩水が…。昨日も船乗った後爆睡で、騒ぎに目が覚めたら此ですよ。…じゃ、ねぇ。今は目の前のウツボだ。

『なぁシャル、此どーすんの?』

「倒す!」

ですよねー。おもっきし航路邪魔してんもんなぁ。シャル動かないけどもしかして傍観するつもりか?手出すつもり更々無いだろ。いいけどさ。只此奴でかくてキモいのにかなり円らな瞳してるんですけど。あぁ、目下睨めっこ大会決勝戦開催中です。どちらも笑わず抗戦均衡状態。さぁ、どちらが勝つでしょうか?

『んなもん私だバーカ』

シンに貰った、あの日賊と戦った剣を構えて、鋒をアバレウツボに突き付ける。あの後剣を、血を拭いて磨いて、綺麗にしてからシンドバッドに返したら持っとけって言って再度渡してくれた。
甲板から跳んでアバレウツボの首に落とす。肉の切れる音の後、水飛沫が上がる音と其に重なる様に野太い歓声が上がる。うっげ、濡れた。しょっぱ。

「お〜、やるなぁ夜尋!」

『当たり前じゃんか。あんなんに負けてたまっかよ、っておい、髪ぐしゃぐしゃにすんな!』

頭に乗る褐色の手を払う。シャルルカンは背中を叩きながら、笑って謝る。あー腹立つ。

「シンドリア帰ったら手合わせしようぜ」

『え〜…』

「嬢ちゃんやっぱ強ぇな!」

『大将、旦那!』

シャルルカンと話してるとやって来たのは船内にある荷物や舵、帆を守りに行った大将と旦那。そう、此の商船はあの日乗せてもらった船。そして賊の頭だった大将も乗ってる。

実は、あの後賊をどうするか悩んでいた時、私が進言したのを採用してくれたんだ。其を大将に話したら、笑って受け入れてくれた。ジャーファルは最後まで渋ってたけど大将と一緒にお願いしたら溜め息を吐き呆れながらも許してくれた。
大将と一緒に居た賊の奴等は肯定するものも反対するものもいて、大将の懇願により肯定派は共に、反対派は逃がしてもらえるようになった。但し、もしも次会った時敵であるならば容赦はしない、と笑って。そしてどの船も嫌がる中、此の商船が快く大将達を引き入れてくれたんだ。

「嬢ちゃんが乗るのが此の船でよかった!お礼が言いたかったんだ」

『え、要らない』

「そう言わず、な?オレもこんな頑強そうな奴を手に入れられたんだ!嬢ちゃんには感謝だ」

痛い痛い痛い、なんで二人で背中叩くんだよ此の馬鹿力共が!わかった。此の二人そっくりだ。顔は似ても似つかないけど。性格っつか人格っつか中身が。相性よすぎだろ被害者の身になれよ畜生。

「おーい、夜尋!」

『んだよシャル』

二人が持ち場に戻り、解放された。シャルが手を振って呼んでいる舳に、のんびりと歩いて寄っていくと、手を引っ張られて急かされる。

「彼処で商品を下ろして、次にお前の国に行くんだよな」

『正確には私が前に居た国、な』

船が停泊してる間の数時間、自由にしてていいらしい。寝てようかな手伝おうかな。考えてる間も船員達が忙しそうに彼方此方走り回って停泊の準備をしてる。旦那との話し合いの結果、私は手伝わず街に行かず、船内で寝てることに。シャルは出るらしい。此が護衛の楽しみなんだそう。

船着き場に錨を落とし、荷物を下ろし終えると皆が船を出、静かに波に揺れる船室の屋根に寝転がる。街からのざわめきが耳に入るも、其すらも子守唄に聞こえ睡魔を誘う。眠いなぁ…暖かいし睡眠日和。瞼を閉じて、ゆっくりと意識を手放し眠りに落としていく。








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