暖かな気温


□不運は重なるよね
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晴れ渡ったとは言い難い、でも厚い雲が光を遮っているわけでもなく澄んだ青が広がった平均的な天候。肌を撫でる風も快適で、暑くも寒くもないとても心地好い丁度いい過ごしやすい気温。騒がしいけど煩わしいとは感じない沢山の色んな人が集まり楽しげな声が交わる市場。其の影に居る良くも悪くも国の現状を教え伝える闇。そんな街を只只管早足で視線を移さず興味を持たずに歩く。

今日は望月の日だってのに、さっぱり忘れてた。溢れかえる人の間をゆっくりふらふらと街を見ながら、街の外にある森へと向かう。ドン。

『ぁ…悪い。ボーッとしてて』

「いや、此方こそ…」

欠伸をしつつ緩慢と歩いていると、前から歩いてきてた奴とぶつかった。多分声的に男。適当に軽い謝罪をし、ぶつかった奴の顔を一瞥だけして其奴の横を通り過ぎる。…ん?進まない。

「顔色悪いけど大丈夫か?お嬢さん」

『…大丈夫って言ったら放してくれる訳?』

「いや…、」

後ろを振り返ると、掴まれた腕と私の腕を掴んでいる今ぶつかった男。周りにいる黄金に輝く其等が男の存在を尊重してくる。今謝ったじゃないですか。何此の男。なんか言ってくる気?当たり屋とかめんどくさいからマジ勘弁なんですけど。

『悪いけど、急いでるから離してくんない?』

「一緒にお茶とかどうだ?」


『お兄さんこそ耳大丈夫?話聞こえてた?急いでるんだって』

え、うざいんだけど。まさかナンパ?やめてよー。顔いいけどアンタいいとこオッサンじゃん。勢いよく掴まれてた腕を振って拘束を解き、相手の顔を見ずその場から足早に立ち去る。声とか無視。総無視。完スルー。
其のままスピードを緩めずに歩いていると、前方で大きい男が私より幾つか小さな子供に人目も憚らず怒鳴っていた。周りの奴らは止めることはせず我関せずという態度で避けて歩いていた。親らしき女は泥々の姿でお腹を抑え、その場で泣き崩れていた。男はとうとう剣を取りだし子供に向けた。あーぁ…時間ないのに。心情と現状が出させた溜め息をその場に残し、早足に男と子供の間へ入っていく。

『大の男が餓鬼相手にみっともねぇなぁ』

「ぁあ?誰だ」

馬鹿か此奴。あぁ、馬鹿か。こんな昼間から餓鬼に喧嘩売る位だものな。うん、馬鹿だった。自分の背後に隠した子供の方に顔だけ向けてさっさと逃げるよう言い男に向き合う。

『何でキレてたわけ?』

「あぁ?その餓鬼がオレの顔に泥を掛けたんだよ」

その言い分に軽く視線を外していた顔を上げ、初めてそのでかい男を見る。うっわ。う〜ん…何とも言い切れない、表し様のない位汚い顔。泥なんて顔のほんの五分の一。

『いや、泥あった方がその元の醜い汚ならしい顔が隠れていいよ。まだマシ。まぁ蟻が余裕で運べる砂利一粒分位な』

「あんだと!?」

『唾飛ばすな汚い』

「ふざけんな、此のガキィ!?」

馬鹿みたいにわかりやすい挑発で煽ったら簡単に乗ってきた。や、まぁ挑発っつか私超素直だから真実を述べてるだけだけどさー。単純な馬鹿野郎は楽でいいわ。生きるのに必死な餓鬼の方が、のうのうと町歩いて餓鬼に喧嘩売れる此奴なんかより数段めんどくさい。何時の間に出したのか、此奴が使うには勿体無いくらい上等な剣を持った腕を上にあげ、縦に斬りかかってきた。

『馬鹿じゃん?』

こんな単純で猪突猛進な考えなしの攻撃を避けらんないわけないじゃないか。大体、長物はリーチがあんだから普通横スイングっしょ。言わないけど。あーあ、武器に使われて。つか武器が可哀想。技術と持ち物が釣り合ってない、不相応だよ。
一直線に落ちてくる剣を横に避け、脚に力を入れて相手の顎目掛けて上に蹴りあげる。低い呻き声を聞きながら、あげた脚を剣を持ってる方の肩に落とす。落ちた剣を脚で遠退け、次にさっきとは逆の脚の膝で腹を蹴る。衝撃で前のめりになったために低くなった頭を掴み、其の鼻っ柱に拳を叩き込んだ。…んだけど、

「其処までだ」

ちっ…殴れなかった。振り被った腕を掴まれ、殴りかかる態勢のままで後ろを目で見る。…さっきの軟派男じゃねぇか。今結構力入れてんだけど微塵も動かせねぇ抜けねぇ…。何か腹立つ。ムカつくなぁ涼しい顔してやがんじゃん此の野郎。

「子供なら逃げられた。十分だろう」

掴んでいた男の頭を離し両手を上げ、此以上戦う意思がないことを示し、だから放せと目で訴える。何故か離す気配のない相手に敵意をもって睨むと渋々ながらも腕を離した。此奴に敵意を向けた瞬間、後ろに居る奴から殺気が溢れた。へーぇ?まぁどうでもいいや。どーせもう会わない。
其奴と腰を抜かした情けない男に元々無い興味が完全に失せ、背中を向け歩く。何時の間にか出来ていた人垣は、私が近付くと避けるように道を開けた。















「おい、待て!お嬢さん!」

「シン!!」

さっきの大通りから少しばかり反れたかなり治安の悪い、如何程な奴等が屯った汚い裏路地を歩いていると、さっきからついてきていた男が叫んだ。その後ろに居るのは多分私に殺気を向けてきた奴。何で私が殺気を向けられなきゃなんないの。何て理不尽で非合理的なんですか全く。ちゃんと躾してくださいー。

『ついてくるなよしつこい』

「こんな時間に何処に行くんだ?」

『関係無い』

なんだよ。鬱陶しいな。あんたに言う必要ないと思うんだけど。何?偽善ぶってんの?てかアンタがストーカー予備軍でお縄だかんなコラ。てか多分アンタのせいで殺気向けられてんの私。其処んとこわかってる?あーもう苛々する。此方は急いでんだっつーの。そんな身体中お高そうな金属じゃらじゃら付けて貴族は御身分の割にお暇なんですねぇ?あーでも、其の金属類の何れか金属器だったりして…。ルフ、一杯居るし。どうやら武術でも嗜んでるようですけど、多人数に襲われれば一溜まりもないんじゃないの。綺麗な顔してるし食われるかもね?此処は危ないよー?今か今かと目を光らせて獲物を待ってる奴等ばっかりだから。

「此の時間に女性一人じゃ危ないだろう?」

『私からすればあんたが一番不安要素なんだよ』

ほんとしつこい。ストーカーな上しつこいって嫌われるよー?顔がいいからってなんでも許されると思ったら大間違いだぜ。さ、早くしないと夜が来る。仕方ない。あんま人前でしたくないんだけど。…めんどくさいし今日望月だし。あーやだやだ。ふわりと風に身を乗せて宙に浮かぶ。目を見開いた男と後ろの奴を一度だけ見て、空を蹴り空高く上がった。はっはーん、ざまぁみろ!








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