暖かな気温


□寝て起きたら…はい…
2ページ/2ページ



「ありがとう!いい経験になったわ!でも夜尋って不思議ね!魔力多いのか少ないのかわからないのよ」

『多いかどうかは知らねぇけど、まぁ困ったことはないよ』

数回しか。浮遊魔法で貰ってきた桃をふよふよと遊びながら然う言えば、恍惚としたような目で見られた。少し鳥肌が立ったんですが…昨日に引き続き危険察知ですか。昨日とは種類全く違うけど。身の危険には代わりないか。苦笑気味に溜め息を吐いてヤムを見据える。

『…シャルの言う通り魔法馬鹿なんだなぁ』

「……何よ。夜尋迄あの剣術馬鹿と同じこと言うの?」

拗ねたように言うヤムライハがあまりにも幼く見えて、思わず笑いを溢す。そんな私の反応に更に不機嫌になったヤムライハを宥める様に口を開く。

『勿論、いい意味でだよ。馬鹿って貶す言葉だけど、言葉は捉えように依れば意味は変わる。私が言いたいのは、多分シャルも。真っ直ぐってこと。単純や純粋ってのもいーかな』

言い終えた後ヤムを見れば、顔を赤くしてた。組んだ足の膝に肘をついて顎を乗せ、にやにやと見てれば其の視線に気付いたヤムは慌てて手を当て顔を隠した。ふふふ残念少し遅かったねバッチリ見て記憶しちゃったぜ。

『折角可愛いんだし顔上げなよ勿体無いよ』

「夜尋って…性格悪いわね」

『…初めて言われたよ』

「絶対嘘よ!」

首を左右に思い切り振って全否定されたんですけど私性格悪いの?指の隙間から赤い顔で睨み上げてくるヤムライハに口角を上げる。いやぁ、認めようかな性格悪いの。なんつーの?此方の一挙一動に反応するのが可愛くて可愛くて。

『ごめんねヤムライハさん許してよ』

「…嫌よ。許してあげない」

少し逡巡した後然う言って頬を膨らまし顔を反らすヤムライハに、さっき迄の余裕と加虐心は何処かへ行き少し焦る。ヤバい一寸茶化しすぎた?どうすればいいかわからず口を噤んで目をキョロキョロさせる。え、と。こーゆー時。こーゆー時は…どーすればいいんだ?謝る?

『あ、あの…ヤムライハさん』

「さん付け止めてくれないと許さないわ。ピスティもジャーファルさんも、王のことだって呼び捨てでしょ?」

じぃっと目を反らしたヤムライハのことを見ながら言葉を脳内で反芻する。そして理解すれば勝手に口元が緩んできた。放送事故だよ此。不味い超ゆるゆる。直す気ないけど。ソファーから立って机を回りヤムライハの横に座る。

『そっか。ヤムライハ、改めて宜しく』

「ええ、此方こそ!」

同じソファーで向き合ってヤムの手を両手で包むように握る。緩やかに流れている空気に笑みを溢す。手を離すと、今度はヤムの両手が私の片手を包み、目を輝かせた顏が目の前に伸びてきた。近い近いそして怖い。

「私夜尋の能力が気になるの!此から沢山研究させてね!」

・・・・・え。ひくりと上がっていた口角が震え、引き攣る。何。え、何?研究?キラキラと期待の目で見られて言葉に詰まる。

「手始めに。夜尋、貴女腰に魔法を…あら?」

近付いてきてたヤムの輝いた目が其の言葉と共に疑問に変わる。助かった。腰に魔法。此は未だ、此奴でもバレたくない。いざとなったら当て身をしようと首に添えた手を終う。未だに此方を目を細めて見るヤムに私も首を傾げて様子を窺う。すると、私の首筋に手を伸ばして触れてきたから、擽ったくて思わず目を瞑って首を竦める。直ぐに手を引いて謝ったヤムに疑問を投げる。

「えっと、夜尋首に痒みとかある?わよね。あるに決まってるわ!」

え?…え?どーゆうこと?其は質問?明らかに質問じゃないよね。だってヤム自身で答え決めちゃったし。問われて、さっきヤムが触った辺りを撫でる。痒くないし、其以前に気触れてる箇所なんかないし。触ったヤムだって気付いてる筈だけど。

『痒みとかないよ』

「…で、でも!」

『え、何!?』

言葉を言い繋ごうにもヤム自身わかっていたからか口を噤む。そして瞬時に顔を赤く染めて俯かせた。何で?

「え、と…其の……」

言い淀むヤムに此方迄不安になる。でも急かしても意味ないからヤムが言うのを只待つ。漸く真っ赤な顔を上げヤムは口を開いた。

「お、王に何かされた!?」

『は?シン?や、目が覚めた時には既に全裸で横に居たけど。何でそんなこと聞くの?』

「う、ううん。…なんでもないわ」

なんでもなさそうな表情には見えないけど本人が然う言うならいっかと忘れる。や、まぁ私のことなんだと思うけどね。どーでもいーし。未だに思い詰めた様な表情で私を見てたヤムが、突然ソファーから立ち上がった。吃驚して目で追えば、ヤムはソファー越しに私の後ろに立った。

「髪、弄っていい?」

意図はわからないけど意味は有ると感じて困らないしいいかと了承する。ヤムは徐に髪を触りながら、右の耳下に一つに綺麗に纏めていく。何処から取り出したのか綺麗な翠の髪紐で結ってくれた。

「出来たわ!」

『有難う。そーだなーお礼に魔法見せてやるよ。銀蠍塔行こーぜ』

然う言ったら喜んだヤムの手を引っ張って部屋を出た。折角脱線した話が又戻らない様に。都合が悪いから話を反らす。ごめんな。未だ、未だ知られたくない。銀蠍塔に着いて端の方でヤムと向き合う。特製の合一技を見せて気を引いてる間、気付かれない程度に腰に掛けた魔法を強める。罪悪感を感じて、悟られない様に顔を歪ませる。





続く。
(250510)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ