暖かな気温


□交戦、好戦、抗戦
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『おい。お〜い。寝んなよ』

目を開かない男の横腹を足で突く。折れてるみたいだから痛いと思うんだよね。呻き声上げてるけど…あれ此完全に落ちた?やっちゃった。

『あーぁつまんねぇ』

何で皆避けるように威嚇してんの?恐いの?戦意喪失しちゃった?ん〜…何か俄然やる気失せた。だって皆ビビって攻撃して来ねーんだもん。

『ねーぇー。やる気ないんなら死ぬ?』

其の言葉の後、ふざけんなとばかりに飛び掛かってきた船員に思わず感嘆の声を上げる。プライド高いんだねー。いーことじゃないですか。其奴等を片っ端から斬り倒す。肉が斬れ、血が舞い、悲鳴が響く。最後の一人が力無く地面に身体を打ち付け静かになった。疲れた〜…。うっげ身体も服も真っ赤。

『っ…』

風の壁を外から攻撃されたのを感じたと同時に、腹部に熱が籠る。ゆっくりと下を見ると突き刺さった刃。なん、で…防壁魔法発動、してないんだよ。剣が抜かれ、血に染まるお腹に手を当てて後ろを見ると、大将が此方を只管睨んでる。殺すなら横に裂けばいいのに。右手で強く剣を握る。

『何?キレてんの?』

「そーかもな。曲がりなりにも仲間としてやってきた奴等だからな」

右手を思いっ切り横に振ると男の腹に当たった。血飛沫が顔に掛かったのを手で拭う。あ、此方腹抑えてた方の手じゃん意味ねぇ。冷めた目で一文字に斬った腹の痛みに耐える相手と其の向こうを見据える。

『ゲームじゃん。楽しむんじゃなかったわけ?』

「一番……楽しんでたのは…嬢ちゃんだろ、う?」

そうかなそうかもうんそうだねそうだった。楽しかったよ。

「船、に…乗らないか?」

『ははまだ言う?こんなにされといて?』

船員全て壊滅状態にされてるってのに。冗談にしろ相当の物好きだね。あー畜生笑ったら腹痛い。相手も顔を痛みに歪めながらも笑った。

「オレ等は、楽しいのが好きだからな。其に、嬢ちゃんは、誰も殺してないだろう」

周りを見て溜め息を吐く。気を失った奴、痛みに倒れてる奴等が甲板に所狭しと倒れている。死んだ奴は一人もいない。目を逸らすように上を仰いで、風で作った船を囲む壁を見る。さっきから幾度と無く攻撃されてる壁。邪魔すんじゃねぇよ外野。

『悪いけど仲間にはならない』

「そうか。其は残念だな」

上を見ながら断ると最初からわかってたのか割り切ったような返事が返ってきた。大将が同じように上を見た気配がした。

「国軍か?」

『気付いてんの?まーそーじゃないかな』

「此は逃げられないな」

『何もしてないじゃん』

何だかんだいって私が未然に防いだわけだし。つかどう見ても悪者私じゃない?此の壁だって王辺りなら私の魔力だって気付くだろうし。血塗れだし。皆倒れてるし。此の剣も非常時だったとはいえ実際盗んだようなもんだし。うっわ私捕まる?

「そんなの関係ないんだよ」

『…私を使えば逃げれるじゃん。何故其をしない?』

利用されたくないくせにいらんこと言う口だなぁもう。下を見たら左脚を伝って床に水溜まりを広げている赤い血。うっわキモ。つかグロ!服もズボンも真っ赤じゃねぇか!

「別にそんなつもりはない。足掻くつもりもない」

『へーかっこいー。私は無理。こんな所にいちゃ駄目だし』

血溜まりから片方の足を浮かせる。ポタッポタッっと赤い雫落ちる指先を赤くない所につければ足形が出来た。と、同時に風壁が壊れた。早く船から出ようと傷が痛むのを無視して身体を捩って地面を蹴り、走って船の縁に向かうと、後方で聞こえた王の声と共に自分の右真横に赤い髪が現れた。

『っ』

飛んできた蹴りに手をついて相手の蹴りの勢いでバク転をする。地に足をつけ左に思い切り飛び退く。すると背を向けた進行方向から気配がし、剣が斜め上から降ってきた。今度は剣を避けれる程度に右に跳んで直ぐに切り返して前に進む。視界の端に紐が繋がったナイフが二つ私を挟むように飛んできたのが見える。

『っち』

脚に力を入れて上に跳ぶも付いてくる其。はぁ!?追尾かよ!?狡くないですか?狡いです!防壁魔法が其を弾く。宙を飛んでいこうとしたら水が防壁魔法越しに視界を遮った。熱魔法で蒸発させた時、水魔法と蒸気に紛れて、微量に電気を帯びたナイフの紐が防壁魔法に絡み付く。パリンと割れる音が耳に入り、身体に赤い糸が巻き付いて下に引っ張られる。

『ぐ…っ』

地面に叩き付けられ、息が詰まる。反動で息を思い切り吸い込んでしまい噎せる。傷いてぇ。あ〜目が霞んできましたよ皆さん。かなりピンチの模様です。叫んでいい?ヘルプミー!影が差し横たえたまま上を見上げると、笑みを浮かべたシンドバッド王。

「大丈夫か?夜尋」

『……此、が、大丈夫そう…に、見えるん、なら…目、相当ヤバいです、よ』

あーもう笑ってんじゃねぇよ…。あれ?お〜い、紐!紐絞まってますよ!無意識ですか?違いますよね?明らか意図的ですよね!?私が王に悪態ついたからですか?そうなんですか?畜生理不尽!つか何奴も此奴も見下してんじゃねーよふざけんな。

「質問に答えてくれるか」

『拒否』

誰が答えてやっかバーカ。つか、疑問符つけろや…っで、ぃだだだだぁあ!!ひーもーがーきーずーぐーちーにー!何で拒否権が行使されないの!?人権持ってるよ私。あーもう。血の水溜まりが出来上がってるよ。あはー、何此の状況。怪我人をもっと労りなさいってお母さんに習わなかった?私は習ってませんけど。





続く。
(250328)
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