暖かな気温


□夜更けにさようなら
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『…』

今私の座ってる机上には、酒、料理、酒、酒、料理。酒の率高くないか?飲む気満々か。如何にも上機嫌に酒を煽るシンドバッド。じぃっと見ていたら、視線に気付いて此方を見るシン。

「ん…?どうした?飲まないのか?」

『あーうん。貰う』

酒の入った瓶を傾けて、容器に注ぐ。透き通った透明な其は色も匂いも果実酒に程遠くて相当度が高そう。ちびっと試しに飲んでみればやっぱり苦い。てか辛い。顔を歪めて舌を出せば其を見たシンは楽しげに声を上げて笑う。

「ははは、一寸度が強かったか?」

『度よりもあれ。辛口』

甘くないし、美味しくない。口直しに水を飲んで、唐揚げを口の中に突っ込む。野菜は然り気無くシンの皿に移す。てかさっきから此奴酒ばっかで飯に手ェ付けて無くね?

『なぁ、飯食え飯』

「ん?食べてるさ!」

『食ってねぇよ!見てた限り一口二口しか食ってねぇよ!?』

只でさえ酒弱いくせに。ったく、空きっ腹に酒入れたら酔うの早いってのに度が強いの飲みやがってよー。自分のとは別の皿に乗っている一口サイズの唐揚げを掴んでシンの口に持っていく。

『酔ったら真面に話し出来ないだろ。酒は後にして飯食え』

「…わかったよ」

酒の瓶を机に置いて、私の手から唐揚げを食べたシンに満足する。酒は床に入る前にでも飲めるからな。漸くご飯に向き合ったシンを見て自分も再び食べ始める。

「…野菜増えてないか?」

『そうか?』

適当に誤魔化し、食を進め、食堂を出る。人の集まる食堂に比べ、廊下は暗く、寒い。

『で?此の後どうすんの?』

「俺の部屋に行くか」

・・・・・・・。
俺の部屋に行くか?俺の部屋って…

『紫獅塔…?』

「あぁ」

『シンの部屋ってシンの私室のことだよな寝室のことだよな?』

「そうだ」

『そうか。




……じゃねぇよ!』

其は流石に駄目だろう!あっけらかんとした物言いに普通に流しそうになったけど駄目だろう。突っ込まれたことが解せないと言わんばかりの表情に、真面目に言ったことが窺える。いや窺えた所で駄目なもんは駄目なんですけども!知ってるんだぞ。紫獅塔は王に近しい者だけが入れるって。どう言ったものかと悩んでいると、痺れを切らしたシンが私の腕を掴んで紫獅塔の方角に歩き出した。待ても出来ないか!

『ちょーいっ待て待て!』

「いいから行くぞ!」

『や、駄目だって!』

「気にするな」

『話し聞けや!』

強引か!ちょ、やだよマジやだよ。ジャーファル君に怒られるかもじゃーん?そんなフラグ要らないよー。渋る私の腕を引くも、踏ん張って動かないから向き合って、説得の態勢に入ったシンドバッド。

「紫獅塔なら静かに話が出来るだろう」

『……』

確かに緑射塔の私の部屋より防音頑丈だろうし、話には最適だろう。其処はまあ認める。

「部屋の主である俺が許す」

……はぁ。盛大に溜め息をすれば、シンドバッドは嬉々として私の腕を再度引く。今度は抵抗なく足は動き、止まることなく歩みを進める。等間隔に置かれた松明の仄暗く、少し頼り無いが温かい明かりと、空から降り注ぐ綺麗な冷たい光のみが廊下を照らしている。二人して喋らないし、足音をあまり出さないから静かすぎる空間。でも特に気不味いなんて事は無く、寧ろ心地好かったりする。











「此処だ」

其の声にふと其方を見れば、今まで通り過ぎ様に見たどのドアよりも大きくて細部まで華美な装飾の其が無感動に目に映る。すげぇ。此処王様の部屋って全力で自己主張してる。

「入ってくれ」

ドアを開けて此方を覗うシンに諦めて中に入る。ふわりと、シンからも時々香る甘い香の匂いが鼻を擽る。部屋には、天蓋が付いた大きいふかふかそうな寝台。ガラスを加工した鏡。台の上に置かれた櫛。物が少ないながらも何れも豪華で扉同様華美な物ばかりである。寝台に乱れはなく、床に塵が落ちてる様子もない。部屋を観察していると後ろで扉を閉める音がした。シンに腕を引かれ付いていけば、ベッドに腰を下ろしたシン。顔の高さが同じ位になって目が合う。

「おいで」

シンが腕を広げれば、惹かれる様に当たり前に其の腕の中に入る。寝台に座ったシンの膝に座って、短い腕を彼の背中に回す。暖かくて落ち着く。シンは頭を肩口に埋め、衣擦れが聞こえた。

『シンの匂い、好きだなぁ』

すぅっと鼻で息を吸えば、香と太陽の匂いが混ざったようなシンの匂いが肺一杯に入る。肩にあったシンの頭の重さが無くなり、肩を押された。顔を上げればシンの顔が目の前にあった。

「香の匂いか?」

『うーん。どーだろ…香ってゆーより』

此の香の匂いすらシンの匂いだし。でも、違う。シンの匂い。安らぐ香り。

『シンの匂い』

「そうか」

嬉しそうに笑んだシンはまた肩口に顔を埋めた。急に擦り付ける様に左右に動かし始め、正直言って擽ったい。

「俺は夜尋の匂いが好きだな。マスルールが言っていた通りだ」

『マスルール?』

「あぁ。マスルールのように嗅覚が高い訳じゃないが、近くで嗅げばいい匂いがする」

シンドバッドが喋る度に首筋に掛かる息が擽ったくて身を捩る。シンの膝に座ってるんだから効果は無いに等しいけど。









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