貸出本

□どうしても
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−何があった訳ではない。
そう彼は思いながら空を見上げる。−−−が、生憎今日は曇り空だった。月は薄い雲に微妙に隠れぼんやりとしている。そんな暗がりにはやはり月の明かりではなく人工的な明かりが彼だけではなく彼同様に家路につく生徒達を照らす。

暫く少し上を向きながら歩く。
ツツ、と頬に何らかのものが通った。どうしたものかと彼は頬を触ると手に水滴がつく。−あ、雨か。そう彼は思ったが今は曇っているだけで雨など降っていない。しかし彼が泣いている訳でもないのだ。

そう、彼は分かっていた。元々頬に何も伝ってはいない事を。これは彼の只の妄想だから。

「いっそ、こんな風に泣ければ良いのにな」

誰も居ないところに一人ぽつりと呟く。最近彼は良く分からない感情に戸惑いを覚えている。人を未だ信じられない彼の回りに仲間、だとか言うのが集まってきたのだ。
始まりは松風天馬と言う彼と同い年の少年。そして−−−彼が思いもしなかった、2年の先輩の霧野蘭丸。そこから彼、狩谷マサキは本格的に頭がぐらぐらと混乱をしてきたのだった。

−俺は、天馬君達を信じて良いのだろうか

胸がモヤモヤする気がする。
はあ、といつもより重たいような気がする二酸化炭素を吐き出す。そしてまた少し顔を上げるとすう、と新鮮なさっきよりも軽いような気がする酸素を吸うと口を開こうとすると後ろから声が聞こえた

「どうです。飛んで行くのはいやですか」

マサキが驚いて振り向くとそこには、男のくせに二つ結びをしている先輩がいた。マサキは嫌そうな顔をすると先輩の彼はまた話し始める

「なんともありません。僕たちの仕事はもう済んだんです」

少しずつ、マサキに近付きながら

「こわかありませんか」

マサキはフン、と目線を前に向けると先輩の彼が口を開く前に先に負けじと口を開く。

「いいえ、飛んだってどこへ行ったって野はらはお日さんのひかりでいっぱいですよ。僕たちばらばらになろうたって、どこかのたまり水の上に落ちようたって、お日さんちゃんと見ていらっしゃるんですよ………ですか?センパイ。」

すると先輩の彼−−−霧野蘭丸は驚いたようにマサキに近より顔を覗く。それを阻止するようにマサキは顔を反らすと蘭丸はあははと嬉しそうに笑う

「意外に知ってるんだな、狩谷。」

「五月蝿いですよセンパイ」

そう心なしか照れたように言うマサキに蘭丸は少し目線を落とした

「狩谷」

少し雰囲気が変わった事に気付いたマサキだったが気にせず何時ものように口を開く。なんですか、と。少し笑いながら
すると蘭丸はむう、と眉をしかめてぐいっと蘭丸のバッグを引っ張られた
マサキが−え。と思うと同時にガツンと歯が当たる。

「っ………」

マサキは痛い、と言おうと反射的に口を開くとぬるりと何かが入ってきた。そのぬるりとした感触に驚いてびくりと肩を揺らす。
しかしそのぬるりとした感触はすぐに口内から無くなると同時にマサキは腰を抜かしてへなへなと倒れそうになったがそれを蘭丸がすぐに受け止めた

「っと…大丈夫か狩谷?」

「……ざ、けんなっ…テメエ…」

顔を赤くしながらそっぽを向くマサキを嬉しそうに抱く蘭丸。未だにふざけるな、だとか女男、だとか言っているマサキだが本気で嫌がっているようではないようだ
蘭丸がぎゅ、と抱き締めるとマサキは顔を真っ赤にさせながら蘭丸の胸に顔を少し埋める。

「………ばか」

「お前が俺置いてくからだろ」

「ゔーばか…」

「はいはい」
















あとがき
元々蘭丸とマサキは付き合ってましたからねニマニマ←
途中に出てきた「どうです〜」は宮沢賢治様のおきなぐさから抜粋させて頂きました。マサキ君がお日様園時代にヒロト君に勧められて照れながらも隠れて読んでたら良いなあって言う私のうふふな妄想です^^

時々、どんな仲の良い関係でも辛くなる時があると思いませんか(((

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