main -狗-
□previous life
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「何を惚けている」
立派に聳え立つ玄関を目の前にして足を止めたアキラに問う。
『…ここ、知ってる。』
アキラはそう呟くと、暗く重い扉に手を合わせた。
そして、なんの躊躇もなく広く続く廊下に足を進めた。
迫りうる壁に等間隔で張り付いている扉。
見ただけでは違いは分からないが、アキラには分かる。
―全てわかる。
扉を開けなくても生活がわかる。
まるで以前見た事があるかのように。
やがてひとつの扉の前で足を止めた。
『あ、…ここ』
「ふん、知っているのか」