main -狗-
□夢と現実の境目
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1月1日元旦。
世間一般では、お正月休みという名の長期休暇の真っ只中。
しかし、ここ“城”では、正月休みなどは存在しない。
常に何らかの業務に追われている。
それどころか、この時期になると厄介な問題や会議が多くあるのが現状だ。
それなのに、新年早々、面倒な事が起こってしまった。
何時ものように寝て、
何時ものように起きて、
何時ものように顔を洗ったはずなのに―…。
『嘘、だろう…。』
汚れ一つ付いていない鏡に向かって全身全霊で睨むが、今起きてしまっているふざけた状況が変わる事はなかった。
頭にはあるはずのないフワフワとした耳。
そして、お尻…いや、尾骨の辺りからは、長い尻尾が生えている。
どちらも髪の毛と同じ色をしていて、不規則にパタパタと動いている。
触ってみると猫や犬を触っているような感じである。
どうやら、本物のようだ…。
「貴様、何だそれは…。新年早々ふざけているのか。」
鏡に自分以外の人影が映る。
それと同時に耳と尻尾が揺れる。
『総帥…っ、違います!!先程起きましたら既にこの様な状況で…。』
「今日はいつも以上に忙しくなる、それをどうするつもりだ」
仕事が溜まっている事は、よく理解出来ている。
でも…、
『総帥っ、お願いします!!。今日1日だけ、業務をお休みさせてください!!』
「駄目だ。お前は先程言った事を聞いていなかったのか。大体、1日休んだからといってそれが引っ込む訳ではないだろう。」
確かにそうだ。
だが、流石にこのままの格好で業務をこなす訳にはいかないし、部下達の前に立つ事すら出来ない。
いや、有り得ない―…。
『ですが…っ、このままではっ、』
「業務を片付ける事に支障はないだろう」
『…っ、十分にあります!!』
「フン…、主に逆らうのか?この俺の命令は絶対だ。」
『…っ!!』
“命令”という言葉を使われてしまうと、アキラは逆らう事が出来ない。
『…申し訳ありません。』
例え、それが死に値するような命令でも、首輪をした飼い猫のように従わなければならない。
―貴方についていくと決めたあの日から―