main -狗-
□previous life
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無意識に言葉を発した事に気が付き、戸惑いを隠せなかった。
『え…、』
「では、この扉の向こう側には何がある」
扉の向こう側―…
他の扉の前を通っても、特に何も感じなかった。
でも、この扉の前を通りかかった時、あらゆる感情が浮かんできた。
つまらない日常の繰り返し。
独りぼっちの寂しさ。
飼い猫のように閉じ込められた姿。
『部屋の中心に大きなベッドがあって、部屋のすみに凄く古い時計台がある。』
『…窓、いつも月を見ていた。』
「ふん、前世の記憶か」
前世。
前世でもこの男に捕まったのか。
そして、今のように不思議な感覚に包まれていたのか。
「では、現世でも同じことをしてやろうか」
考えるだけでごめんだ。
『前世とか現世とか、そんなの関係ないだろ。今は今だ。だから俺の意思で生きる。』
「ふん、やれるもんならな」