Novels - 02

□女装趣味なアイツとオレと勉強会
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「ここ解る?」
「ここは――」

 丁寧に教科書を眺め、くいと人差し指と中指で黒縁眼鏡を押し上げる坂井佑介《さかいゆうすけ》。

「とっきー、こっちは?」
「さっき教えただろ!」

 返して教科書を丸めて頭を叩く倉田時春《くらたときはる》。

 涼しいリビングで二つのテーブルを並べながらわいわいと勉強会が進むなか、一時も進まないオレ・金沢結樹《かなざわゆうき》。シャーペンを握る手に力を込めるが、全く進まない。それには大きなわけがあるのだが。

「――……なに?」

 目前に腰を下ろすこの家の主の倉田はオレを見据える。奴はなぜか女子生徒用の制服を身に纏っていた。いや、そのままじゃなくて多少のアレンジはしてあるけど。その意味が解らなすぎて進まなかった。

 放課後、赤点を取りそうなオレを含む四人で勉強会を開こうと話をしていたら、うちのクラスに遊びに来ていた倉田がなぜか家を使えばと勧めてきたのだ。話が進めば、倉田と倉田の友達の坂井が所謂先生役をかってでた。「バカがいくら集まってもバカだから」と。学校内外でも女子生徒用の制服を着ている倉田に言われたくはなかったが、隣のクラスなのにわざわざオレたちの面倒を見るのだからと周りに諌められ、怒ることはやめた。

「で、さっきから一ミリも進んでないんだけど? 勉強会開いた意味あんの? 一番バカなのは金沢だろ?」
「なんだと!? ――いや、違くて……その」
「その?」
「お、お前が、なんで女装してんのかと思って……」
「いくら共学っつっても、元男子校だ。女子はまだ少ない。だから、花がいるだろ。ムサイのだけじゃ息が詰まるし。つか、俺の息が詰まりそうなんだよな。お前たちはまだマシだけど、むさ苦しいの多いし。それにこの格好してれば皆優しいかんな」
「ふぅん」

 確かに倉田は女顔だ。女装も違和感はない。ないけど、しゃべり方は男そのものだからびっくりはする。

「ふぅんって、お前が聞いたんだろが」

 倉田が投げた消しゴムがオレの額に直撃した。地味に痛い。

「――時春」
「……あぁ」
 
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