腐男子観察日記

□友達の関係性
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「あのさ、忍……」

「昼、なに食べる?俺買ってくるよ」

「え……あ、じゃあ……忍と一緒ので」

「……わかった」

お昼時、いつものように食堂に行き二人分の席を確保して早々に松野は一人で食券を購入しに行く。一緒になんて選択肢は端から無いようで、祐の性格上強く“自分も一緒に行く”なんて言い出せない事を分かって会話を進めてくる。

祐を理解しているだけに、松野と話すのが難しく、一緒にいるのが辛かったりもする。きっと、松野は祐がそんな感情を抱いているのも分かっているのだろう。

「はい、オムライス」

「あ、ありがとう……。いくらだった?」

「遅刻ギリギリだったんだ。どうせ財布持って出てないだろ?夜で良いよ」

「でも…」

「いいから、早く食べよう」
「あ…………うん」

変わらない優しさと、変わってしまった気遣いに、祐の胸は痛くなる。松野が持ってきたのは祐が好きなメニューで、なおかつ朝ご飯と味が重ならないもの。さりげなく置いてくれた大学芋は祐が大好きなもので、飲み物だって祐がいつも選ぶものを持ってきてくれている。お金だって、きっと松野は色々理由を付けて全額受け取ってはくれない。

でも、それほどまでに祐を理解して優しいのに対して、一方では座る席が隣だったのが向かい合いや斜めだったり、話す時には視線を合わせずに歩く時も斜め前を歩いたりする。前とは違う松野を見るのが怖いと思う祐の心情を察しての気遣いなのかもしれないが、今はそんなのは求めていない。

今だけは、強引にでも顔を見合わせて話をしたい。

「あのさ、忍…」

「ご飯が冷める。食べてからな」


そう言って、いつも話を避けるくせに……。俺と距離を取って、逃げるくせに……。


「……聞いてくれないじゃんか」

「……祐?」

祐の少しトーンの下がった声に、松野が今日初めて祐の名前を呼び、眉を寄せた。名前を呼ばれるのがこんなにも嬉しいものだと初めて知った。

「忍、最近ずっと、俺の話聞いてくれないじゃん」

「……そんな事」

「あるよ。聞いてくれない、無視するじゃん」

カタリとスプーンを置く音が大きかったからか、それとも祐の声が上擦っていて泣きそうだったからか、ただ単に松野が人気だからかは分からないが、周囲の視線が二人に集まる。

それでも、祐は止まらない。この二週間溜めていた言葉が溢れ出す。

「辛いよ、忍。そこら辺の奴等に無視されたり呼び出されるより、忍とこんな状態なのが一番辛い。忍は辛くないの?平気?」

「……ちょっと静かにしろって」

「嫌だ、無理。だって俺、二週間頑張った。無理だよ、もう。言わなきゃ…無理…」

「祐、ちょっと黙れ、な?」

「っ」

松野の手が祐の口まで伸びる。……が、抑えて黙らせることはなく直前で手は止まる。

「……場所、変えよう?」

「でも――」

「祐」

松野が苦しそうな顔をして、名前を呼ぶ。


止めて、そんな顔しないでよ。そんな声で、俺を呼ばないで……。


「頼むから……な?」

「……うん」

緩んでいた涙腺が、更に緩む。涙が、流れてきた。

さっきの表情で分かった。辛いのは松野だ。祐よりも遥かに、松野の方が辛いんだ。なのになぜ、自分が涙を流すのだろうか。

祐は俯き、松野の後をついて歩いた。


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