腐男子観察日記

□夏休み
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「お母さん、ただいまー」

「松野さん!!」

祐が家を開けて最初に現れたのは母ではなく、妹の茜だった。

「うわ、本物だ。松野さんだ!お兄ちゃん、ナイス!良い友達作ったね!あー、本当に格好良いね。確かにモテそう。爽やかな美青年だね」

「……茜…」

「でもさ、攻めっぽいけどさ…。やっぱり受けだよね。泣き顔見たい感じ!」

「茜……」

「あ、忘れてた。初めまして。松崎茜です。お兄ちゃんがいつもお世話になってます」

「あ……松野忍です…」

怒濤の感想の後に自己紹介をして握手を求めた妹に、松野は驚きながらもそれに応える。


自分の妹ながら、流石だな。忍が黙っちゃってるよ。

てか、泣き顔見たいって…。俺悲しいぞ?お前の性格がSよりだなんて。


「あのさ、茜。取り敢えず家に入れてくれない?」

「あ、お兄ちゃんだ。元気だった?」


おいおい、俺は眼中になかったのかよ。


その展開は悲しくて、祐は肩を落とす。

「はぁ、お前は兄貴より忍が先かよ……」

思わず癖で、祐は後ろにいる松野に寄り掛かる。

「まあまあ」

松野は祐の頭を撫でる事でそれを慰める。日常のその行動を疑問に思わず、祐は目を閉じてそれに浸る。

「ふふ。ごちそうさまー。じゃあ、入って」

「あ……しまった」

茜が腐女子なのは分かっていたのに、常に松野と一緒にいるので、どこまでが茜の萌えに引っ掛かるのか分かっていなかった。自分も腐男子だが、自分と松野の組み合わせで萌える事はないので理解の外だった。

楽しそうにしている茜を見て気付いた祐は、慌てて松野から離れる。

「ん?どうした?」

松野は腐女子目線に関しては疎いのか未だに理解出来ていない様子で、祐の頭を撫でている。

「忍、俺の妹は腐女子なんだ!」

「……知ってるよ。さっきの挨拶で嫌と言う程にな」

「だからさ……」

さっきの茜の“ごちそうさま”発言は、きっと松野が祐の頭を撫でたからだ。

「……なんだよ」

祐は松野をジッと見る。松野は祐から手を離して聞く。

「夏休みの間、家にいる時、忍から俺に触っちゃダメ!」

ビシッと指を立てて、松野に言い放った。

「……え?」

「茜に変な目で見られちゃうから、特に、茜がいる時はダメ!」

祐の言う禁止事項は、松野の心に無情に響いた。


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