腐男子観察日記
□夏休み
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桜ヶ丘高校に夏休みが訪れた。
祐と松野は荷物を持ってバスに乗り込んでいた。
「じゃあ、行きますか」
「ここからバス?」
「うん、終点まで乗ったら家まで近くだよ」
「ふぅん、了解」
「楽しみだね、忍」
そう会話したのは数分前の出来事だ。
「……寝るの早いな、お前」
松野の肩には口を開けて眠っている祐の顔があった。
「まあ、寝顔見れて良かったけどさ……」
普段はあまり近くでじっくりと見る事が出来ない祐の寝顔だから、見る事が出来て嬉しい。と言っても、もう少し祐と会話したかったのは本心なので、がっかりした。
「あーあ、一ヶ月頑張れよ、俺」
無邪気な祐の寝顔を見ないように頑張りながら、松野はどれくらいかかるか分からないバスの道のりに懸命に耐えた。
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「おい、起きろ」
「ん……」
頭をペシペシと叩かれて、祐はゆっくりと目を開ける。
「……んー」
「着いたぞ、終点。祐が案内してくれねぇと俺分からないだろ?」
「あ、忍だ」
祐は松野を指差し微笑む。
「寝ぼけてるだろ、お前。起きろよ、いい加減」
松野は祐の頬をつねり、祐は痛みから現実に戻って行く。
「あ、忍じゃん!」
「……祐、しっかりしろよな」
松野の呆れ顔の後ろに、運転手の顔が見えた。
「……あのー、そろそろ降りて頂いても良いですか?」
「あ、はい。すみませんっ」
「バカだなー、祐」
祐は立ち上がって、松野の手に引かれてバスを降りる。
運転手に急かされるなんて恥ずかしい。しかも、やり取りを聞かれていたのかと思うと更にそれは増す。
「……ここから徒歩です」
祐は俯きながら松野を家まで先導する。そんな祐を、松野は微笑みながら見ていた。
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