短編集
□好きです。けど、言えない。
1ページ/5ページ
みんなから囲まれて、近付くのさえ難しいその人。
その人は、学校で有名な先輩で、女の子にとても人気です。
でも、近付きたいなんて思いません。
話すことも望みません。
遠くからそっと見れるだけで満足です。
僕は、そう思っていました。
「また読書か?田中?」
「あ……青木くん」
名前と同じ地味な田中に話しかけてくれたのは、女子からモテて、男子からは慕われる青木。
「図書館の本、全部読んだんじゃねぇの?」
「そこまでじゃないよっ」
「それは返す本か?」
青木は机に積んでいる本を指差す。
「……うん」
「よし、返してやるよ」
「えっ、いいよ。僕が返すよ」
最近、何故か青木は田中に構ってくる。
図書館に来る人口が少なくて、落ち着くから?
でも、ならどうして僕に話しかけてくれるの?
「これ、どの棚?」
「それは、あそこ……」
田中が高い棚を指差せば、青木は笑う。
「絶対、田中届かないだろ。どうやって取ったんだよ」
楽しそうに笑う青木を田中は見る。
夢みたいだ。
あの青木くんとこうして話してるなんて。
気付いて、ないよね?
僕が、青木くんを好きだって。
.