長編小説
□七龍【第一話】
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――ドクン…
鼓動がやけに耳に残る。
闇が支配する空間。
自身の姿でさえ確認する事の叶わぬ、現実世界とは掛け離れたその場所に今、目覚めようとする者が居た。
――ドクン…
脈打つ心音は、不定期に乱れ、落ち着こうとはしない。
否、落ち着かせようとはせず、怒りと嫌悪そして、憎悪と言う感情が渦巻いているのだ。
その者の四肢は、無数に張り巡らされた絹糸のような紅い糸状のものにより、その自由を奪われていた。
闇の支配するこの空間にありながら、その糸は独自に輝いているかの如く、燃えるように紅く、煌々とした存在感を放つ。
この者が、動き出すことを阻むそれは、縦横無尽に交差し、絡まり、そして縛り上げていた。
『忌々しい… この怨み…忘れはせぬぞ!』
微動だにしない身体を怒りに震わせ、低く地を這うような声音を発する。
それはこの世の物とは思えぬ程、暗くそして重いものだった。
声だけで人を殺す事が出来るのなら、それは間違いなく、この声であろう。
全てを憎み、忌み嫌う負の感情のみが、この者を突き動かしているかのように。
『今少し… 覚悟するがよい!』
僅かに乱れた息を吐き、辺りは更なる闇に包まれた――。
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