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□戦場からの手紙
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自分が本当に生きているのかさえも、わからないこの時代。
できれば、こんな時代ではなく、もっと平和な、アイツと2人でいつまでも幸せに生きていける、そんな時代に生まれたかった。





 戦場からの手紙





第二次世界大戦。
今、日本は男たちが戦争に取られた為、女子供、老人だけが残っているというとても不安定な生活を送っている。
しかし、戦争は兵だけでは飽き足りず、医師や看護婦までもが戦場に駆り出された。
負傷した兵士たちを、更に利用する為だけに。
ここ、安田記念病院にいる医師たちもまた、例外ではなかった。
緊張と恐怖の中、院長直々に声がかかる。
決められた3人だけに。

「我々が…戦場に…?」

午後の日が燦々と室内を照らす。
予想はしていたが、実際に言われるととても堪えた。
喉が渇き、ヒリヒリとする。
やっとの思いで出した声は、自分の声ではない様だった。

「──ぁぁ…」

頷かれた声は痛々しく、机の上に置かれた院長の手は、何かに耐える様に震えていた。

「──迎えが来るのは明後日だ。それまでに、身の回りの整理をしておけ…」

俯いたまま、目を合わせ様とはしない院長に、今はただ、泣きたくなった。
きっとこの人は、自分たちが戦場に行かない様、何かと手を打っていたに違いない。
それをわかっているからこそ、院長を、この決定事項を責める事はできなかった。

「──わかりました…。今まで有り難う御座いました…。それでは失礼します」

3人は各々に挨拶をし、部屋を出ようとした。
死の旅路へ行く為の、身辺整理をしに。
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