この狭い世界の片隅で。
□02-始まり。
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考えてみたら、二人にはゴールがなかった。
‐02-始まり。‐
着いたのはおんぼろアパート(に見える)“メイプル楓”。
…訳したら“楓楓”なんですけど。
(意味わからん)
赤褐色の空ぶき屋根(それも所々色の濃さが違う)を、そら珍しく見上げた。
彼はと言えば、“オレ様の歌・四番〜愛と情熱のランナウェイ〜”だかなんだかを外れた音階の口笛で奏でながら、車のキーを掛けている。
「ところでさぁ…私はどうすればいいワケ、“樫屋さん”?」
考えてみたら、何がゴールなの?
何を見い出したら、サヨナラなの?
くるりと振り返ると彼は、目を見開いて驚愕と恐れの入り交じった顔をしていた。
「おま…っ、今なんて言った!?」
「え、いや、だから…」
よくわからないが、怯む。
「なんでオレの名前を知ってんだ!?おま…エスパーか!そうなんだなっ!?」
「…それ真面目に言ってるんですか」
肩の力ががくっと落ちる。
なんなんだ全く、この男は。
「さっきアナタの免許証をちらっと見たから」
樫屋悠太(カシヤユウタ)、21歳、男。
サングラスをかけてない、緊張した顔写真。
「っはぁー!オマエすげぇ洞察力だな!探偵みてぇ」
レンズの奥の黒い瞳がキラキラ輝いている。
「なにをバカな…」
ほとほと呆れて見せれば、彼は少しだけムキになった。
「いやいや、立派な特技だって!」
樫屋さんがそう言いながら手をヒラヒラさせ、おいでおいでするので、私はその背中に素直について歩いた。
「なんの役にもたちませんよ」
「んなこたねぇよ、なんかの役にたつかもしんねぇ。
未来のことなんか言い切れねぇだろ?」
ニシシ、と後ろ姿が笑う。
なんだか気恥ずかしかった。
(確かに、そうだけどさぁ…)
「あ、あの樫屋さん、」
樫屋さんってご職業は?と続けようとした。
「…今、なんつった?」
ポケットに両手を突っ込んで猫背のまま、彼は立ち止まる。
「え、樫屋さ…」
「キモい!!ヤメテ!!マジで!!」
ヒィイイと叫び恐れるように青ざめる彼。
再び歩き始めて、私は慌てて鉄錆び階段の後に続く。
「マジ、さん付けとかないわ…。
普通に呼び捨てでいいから!ホント!」
鳥肌立ったぜ、と呟いた彼。