拍手小説

□酔
2ページ/2ページ




「千鶴って…いい匂いするよな」



「えっ…!?」



そのまま耳の後ろ辺りまで近付いて、クンクンと鼻をすする。



こんな事をする平助君にドキリと胸が高なってしまって、私はその場を動けずにいた…



「耳朶、やわらかそ…」



ーカプッー



「んっ…!」



いきなり噛まれた耳朶から平助君の歯の感触と、吐息が熱になって体を電気のように伝う。



ん?と、今度は平助君が私の顔を覗き込むと、いつもの少年のような彼じゃない、男の彼がいて…



ニヤリと口角を上げて挑戦的に見る目に、私は目を反らさずにはいられなかった。



「食っちまいたいなぁ……駄目、かな?」



「えっ……あ、あの…私…っ」





『おーい、平助ー?どこだぁ?』



だんだんと縮まる二人の距離を一瞬で離したのは、遠くから聞こえてきた永倉さんの声だった。



「ん、新八っつぁんの声だ…」



平助君は顔色を変えることなく声の聞こえてきた方を仰ぐ。



そして何事もなかったかのように、じゃっ、と部屋を出て行った。



「な、なんだったの………?」







翌朝の平助君は昨日の事なんて少しも覚えていなくて…



あれは夢だったのかな、と思い自分で耳朶を触ると、そうではない、と体を巡る電気が私に伝えるのであった。




前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ