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□酔
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「千鶴って…いい匂いするよな」
「えっ…!?」
そのまま耳の後ろ辺りまで近付いて、クンクンと鼻をすする。
こんな事をする平助君にドキリと胸が高なってしまって、私はその場を動けずにいた…
「耳朶、やわらかそ…」
ーカプッー
「んっ…!」
いきなり噛まれた耳朶から平助君の歯の感触と、吐息が熱になって体を電気のように伝う。
ん?と、今度は平助君が私の顔を覗き込むと、いつもの少年のような彼じゃない、男の彼がいて…
ニヤリと口角を上げて挑戦的に見る目に、私は目を反らさずにはいられなかった。
「食っちまいたいなぁ……駄目、かな?」
「えっ……あ、あの…私…っ」
『おーい、平助ー?どこだぁ?』
だんだんと縮まる二人の距離を一瞬で離したのは、遠くから聞こえてきた永倉さんの声だった。
「ん、新八っつぁんの声だ…」
平助君は顔色を変えることなく声の聞こえてきた方を仰ぐ。
そして何事もなかったかのように、じゃっ、と部屋を出て行った。
「な、なんだったの………?」
翌朝の平助君は昨日の事なんて少しも覚えていなくて…
あれは夢だったのかな、と思い自分で耳朶を触ると、そうではない、と体を巡る電気が私に伝えるのであった。
終