幕末志士の恋愛事情
□疑惑狼
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「か、桂さんっ…!」
さぁこっちだよ、と桂さんの手が私の腰を引き、何処かに向かう。
私が間者かもって…
なんで今更…?
何度も桂さんや高杉さんとは会ってるし、龍馬さん達とも同じ仲間だって…ぴったりと腰に密着していて少し歩きづらい…私は桂さんの着物を掴んだ。
「もうすぐだからね」
そう言って笑顔を向けてくるけど、全然笑っているような気がしないのはなぜだろう…
広ーい、お屋敷の長州藩邸。玄関から遠ざかって庭を抜け、辿り着いたのは………
蔵?
お屋敷よりも作りは古い…よくおばあちゃんの家にありそうな窓が一つしかない蔵。
「あ、あの…ここは?」
「ここはね、ただの物置に使われている蔵だよ」
入り口に鍵となっていた大きな木を外し…ギギキ、と重い音と共に扉は開く…
一つの窓からしか光が入り込まない蔵の中は薄暗く、光が差し込むところに埃が舞っているのが見えた。
私を調べるって言ってたよね…?
チラッと桂さんの横顔を伺う…そんな私の不安を読み取ってくれたのか、優しく微笑み返してくれた
「ただ疑惑をなくす為だからね。君の白が分かれば済む話さ」
閉ざされた扉。
ガコン、と内側から施錠され完全に密室になった。