幕末志士の恋愛事情

□疑惑狼
1ページ/8ページ




「か、桂さんっ…!」



さぁこっちだよ、と桂さんの手が私の腰を引き、何処かに向かう。



私が間者かもって…



なんで今更…?



何度も桂さんや高杉さんとは会ってるし、龍馬さん達とも同じ仲間だって…ぴったりと腰に密着していて少し歩きづらい…私は桂さんの着物を掴んだ。



「もうすぐだからね」



そう言って笑顔を向けてくるけど、全然笑っているような気がしないのはなぜだろう…



広ーい、お屋敷の長州藩邸。玄関から遠ざかって庭を抜け、辿り着いたのは………



蔵?



お屋敷よりも作りは古い…よくおばあちゃんの家にありそうな窓が一つしかない蔵。



「あ、あの…ここは?」



「ここはね、ただの物置に使われている蔵だよ」



入り口に鍵となっていた大きな木を外し…ギギキ、と重い音と共に扉は開く…



一つの窓からしか光が入り込まない蔵の中は薄暗く、光が差し込むところに埃が舞っているのが見えた。



私を調べるって言ってたよね…?



チラッと桂さんの横顔を伺う…そんな私の不安を読み取ってくれたのか、優しく微笑み返してくれた



「ただ疑惑をなくす為だからね。君の白が分かれば済む話さ」



閉ざされた扉。



ガコン、と内側から施錠され完全に密室になった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ