天然炸裂ガール
□明日はある
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学校に通ってから2週間が経った。
胃潰瘍になりかけるも学校生活には一部を除いてだいぶ慣れてきて、遅刻しかけることもなくなり時間に余裕をもって行動できるようになっていた。
だがしかし、一つだけどうやっても慣れないもの、人生の中で最も苦手だといっても過言ではないものがあった。
それは、宿題や課題。
宿題として出された問題は簡単で解き易いが量が多く、めんどくさがりで自分の時間領域を侵されるのを最も嫌悪としている美也子にとっては今すぐにでも破り捨てたい、千切りたい、いっそ燃やして塵にしてやりたい、目の前の紙を睨み付けながらそう思うばかりである。
「ねーちゃん、ただ見てるだけじゃ宿題は終わらねぇぞ」
「スワヒリ語でおk」
「そこは日本語じゃねぇのか」
「ったく、テスト前でもないのにンなのよこの量・・・鼻紙にして捨ててやる」
「おい宿題の紙ぐちゃぐちゃにしたらダメだろ」
「チッ!わかったよ・・・紙しゃんごめんなちゃい、ぺこり」
「そうじゃないだろ」
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!やりたくないよぉおぉぉぉ!!!」
「あとにあとにやったって、ただ自分の首を絞めるだけなんだぞ」
「じゃあ鉄君が宿題やれよ、見た感じ中坊でも解けそうな問題ばっかだし」
「俺がこんな難しい問題できるわけないだろ」
「因数分解くらいできるでしょ!?」
「俺得意教科体育だしな・・・」
「体育だから何!?じゃあわかった!こうしよう!分担してやろう!」
「夏休みの宿題じゃねーんだから」
「いいから!やるの!はい、鉄君は英語と数学ね。お姉ちゃんは国語やるから」
「俺が絶対できなさそうなの押し付けやがった」
「おっ、漢字の問題がある。この程度なら余裕だね。ググろ」
「自分の力でやろうぜ、ねーちゃん」
「じゃあ鉄君もエ○サイト翻訳と電子辞書に頼らないで自分の力でやりなよ!」
「無茶言うなよ」
分担してやったところでこの宿題を提出するのは美也子なのだ。
エキ○イト翻訳や電子辞書を使うのもググるのも、美也子に恥をかかせないよう間違える箇所がなるべく少なくなるように鉄なりに気を使っていたのだが、人の心がわからぬ王のごとく美也子にはその思いは伝わっていなかったようだ。
しかし鉄はそんな美也子の横暴すぎにも程がある態度を特に気にしない。むしろツンデレと変換している。これが愛なのか。
「そうだ、ねーちゃん」
「なーにー?鉄くん」
「腹へってね?」
「空いてないよー」
「冷蔵庫の中にコンビニスイーツなるものが」
「ちょおぉぉおぉぉおっと小腹が空いたなぁぁぁぁ!!!えっ?何?コンビニスイーツあるのー?あらちょうどいいー!お姉ちゃん持ってくるねー!」
「おう(今のうちにエキ○イトで調べるか)」
数分後
「(ねーちゃん、おせーな・・・持ってくるまでに我慢できなくてその場で食ってるのかな)」
ドンドンッ
「おっ」
「鉄くん開けてー、お姉ちゃん手が離せないから」
言われたとおりに鉄が襖を開けるとそこにはお菓子類を両手いっぱいに持っている美也子がいた。
美也子は、んふふっ、と得意気に笑い鉄にありがとう、と軽く礼を言う。そんな美也子に思わずドキリとする鉄。しかしそんな甘い展開は美也子にとっては毛先ほどの興味もないこと、顔を仄かに赤くする鉄をガン無視で部屋の中に入り持ってきたお菓子達を机の上にどっさりと置く。
「(ハッ!)ねーちゃんそれどうしたんだよ」
「棚の中にあったから半分くらい持ってきたの」
どっさりと置いた菓子類の中からポテトチップスを一袋手に取り袋の口を開けると、美也子はそのまま煽るようにポテトチップスを口の中に流し込むという女子力/zeroな食べ方でリスのように頬をぱんぱんにして、ボリボリと音を立てながらあっという間にポテトチップスを一袋を食べきった。
「あれ、ねーちゃんコンビニスイーツは?」
「ちょっと何お姉ちゃんのお菓子食べようとしてんの。鉄くんはお姉ちゃんがお菓子食べてる間畳みの目でも数えてなよ、あとそれらはすでにお姉ちゃんの胃の中よ」
「歪みなさ過ぎて何も言えねェ」
「何とでも言うといいよ・・・って、ん?(あれ、数学はそんなだけど英語は終わってる・・・)」
「ねーちゃん?」
貴様の声なんぞ聞こえんとばかりに美也子は鉄に渡した(押しつけた)英語のプリントをまじまじと隅から隅までくまなく見るとプリントの端からチラリと鉄へ視線を送る。
「鉄くん、ちょっとこっちおいで」
おいでおいで、と手招きする美也子に従い近寄る。鉄が来たのを確認すると美也子はあからさまにプリントで顔を隠す。
鉄は思った。エキサ○ト翻訳と電子辞書を使った事を言われるのか、いやもしかしたら「よくできました」とか言ってご褒美に頭を撫でてくれるかもしれない・・・後者の確率はかなり低いだろうが、出来れば後者の方がいいな、とか思っていると美也子の手が鉄にスッと伸ばされる。
しかしその手は空を切るばかり。
「ねーちゃん?」
「チッ、届かない」
「は?届かないって何に」
不機嫌そうな顔で舌打ちをして重たそうに腰をあげると、鉄の頭に叩く様に手を乗せた。
やっぱり叩かれるか、と思っていると頭に乗っかている美也子の手が左右にさするように、いや撫でていた。
鉄はまさかの後者の方の行動に驚き顔を上げると、そこには照れた顔で笑った・・・などそんなこともなく、美也子はしかめっ面で鉄の頭を機械的に撫でている。
しかしどんな表情であろうと愛がなかろうとその行為自体が鉄にとっては最高のご褒美である。
「鉄君・・・よく出来ました」
「ねーちゃん・・・っ」
「でもエキサ○ト翻訳と電子辞書使ったでしょ」
「」
「目泳いでるよ、嘘とかつけないバカなんだから正直に言いなさいよ、怒らないから」
「使った」
バキン!!
「怒んないって言ったじゃん」
「殴らないとは言ってないじゃん」
「その発想はなかった・・・」
「あるでしょ普通に、バカなの鉄君?あ、バカか」
やっぱり殴られたか、でも頭撫でてもらえたからいいか・・・と、愛故のポジティブ変換によって殴られても広い心で何でも受け止めるガタイも精神も頑丈とは・・・この中学生、この年にして出来すぎである。
「でも本当にやってくれるとは思わなかった」
「ねーちゃんの頼みだからな、やらないわけにはいかないだろ」
「へー・・・どうでもいいや。はい、ご褒美もういっちょ」
持って来た菓子の袋をバァン!と派手な音を立てながら開けて、袋の中に手を入れて一つ摘まむとそれを鉄の手の上にポイッと乗せる。
「(ポテコ・・・)」
「・・・・何?その顔?一個だけじゃ足りないっての?」
「(何であえてコレを・・・?)」
「3個か?わっかの3個ほしいのか?」
「(わっか?・・・なるほど、そういうことか)」
「3個・・・イヤしんぼめ!!」
「ねーちゃんっ!」
「え゛!?何゛!?」
「つまりはそういうことなんだな!?ねーちゃん!」
「何で急にイキイキした顔してんの!?え、何この子こわ・・・え、ちょ、なんでポテコ左手の薬指にはめてんの?本気で何してんのお前」
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