英雄の兄と落ちこぼれの妹

□誕生日の夜
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「…思念体でしかない紙風情が調子に乗っていますね」

「…貴様の随分と調子に乗って居たがな」


リドルを射殺さんばかりの視線を送るレギュラスにヴォルは呆れながら言い放つ

聞く耳を持たない様子のレギュラスは今にもシャンパングラスをへし折りそうだった

もちろんリドルだけに良い思いをさせるわけもなく、サラが二人の元へ向かう


「紙屑なんかと踊るよりも私と踊ろう」


不意に右手を取られてクルリと回されるリアン

回ることでリドルが引き留める暇なくサラの腕の中に収まったリアンは驚きを隠せぬ様子でリドルとサラを見る


若作りの糞爺が…


物凄い表情でリドルを睨み付けるサラだったが、見せ付けるようにリアンをグッと抱き寄せるに留めた


「楽しんでいるか?」

『うん
なんかみんな踊り方が違って面白いの』


クスクスと笑みをこぼすリアン

短い時間とはいえやはり違いは分かるのだろうリアンの言葉にサラも頷く


「癖や性格が出るものだ
誰が一番踊りやすい?」

『まだヴォルとは踊ってないけど…
みんな上手だから踊りやすいよ』


そんなリアンの言葉に少し不満が残るサラだったが、それでも楽しそうなリアンの表情に頬を緩める


「リアンも
とても踊りやすいな」


こちらの動きを見て、誘導するがまま望むがままに動いてくれるリアンはとても踊りやすい

下手に知識がある者はその者のテンポを持ってしまい、テンポが合わなければ非常に踊り難くなってしまう

だがリアンにはそれが無い


「癖もなく踊りやすい
無垢で純粋な事が踊りでよく分かる」

『ぼくはそんなに無垢でも純粋でもないよ』

「そうでもないさ
私やあいつらに比べれば…
リアンは眩しいぐらいに綺麗だ」


そう耳元で囁くサラに擽ったさと恥ずかしさから肩をすくめるリアン

嬉しいと思う反面、自分には勿体無い言葉だと思いながら、リアンは目を伏せた

そしてサラとのダンスが終わり、リアンは赤ワインを飲むヴォルを見て首を傾げる


『ヴォルは踊らないの?』

「…別に」

『下手かもしれないけど…
せっかくだし踊ろうよ』


そう言ってヴォルの手を取るリアンにヴォルは目を細めたが、ワイングラスをテーブルに置いたことで了承してくれたんだと思い、リアンは頬を緩める

そしてまた流れる音楽に合わせてリアンとヴォルは手を取り合う


「足を踏んでくれるなよ」

『うん、気をつける』


身長差があれどもそれを感じさせない二人は流れる様にステップを踏んで踊る

ジッと見つめて来る深紅と翠の瞳にヴォルはジリジリと身を焦がす様な感覚を覚えながら、リアンをエスコートする

踊っているとやはり気になるのは二の腕に添えられたリアンの手の甲にあるリドルの印

手首にあるレギュラスの印も勿論不快ではあるが、目に付くリドルの印にヴォルは眉をしかめる


「貴様は本当に…」

『ヴォル?』


何かを言いかけて押し黙るヴォルにリアンは首を傾げる

だがその前にクルリと回転させられ、口を噤む


「貴様は俺様やあいつらをどうしたいのか、たまに分からなくなる」

『え?』

「“傍に居て欲しい”
そう望んでいるのは知っている
だが容易に命の水を与える約束をして、その身に印を刻む事を許すのはまた違うのではないか?」


レギュラスは知らなかった上に不可抗力だとは分かっている

だがヴォルへの約束は目的があるとはいえやり過ぎだろう

そして印も…


『ヴォルは寝てる所に強引に印を付けた癖に
許すも何もないじゃない…』

「では意識がはっきりしていたら拒んでいたのか?」


ヴォルの問い掛けにリアンは押し黙る

きっとリアンは拒まなかっただろうと、自分でもそう確信していたからだ


「…貴様を最初に見つけたのは俺様だ
最初に知識を分け与え、一番長く傍に居るのも俺様だ
その事を忘れるな」


そう言い放つと同時に手を離したヴォルにリアンはようやく音楽が止まり、ダンスが終わった事を知った

何も言わず離れていくヴォル

だがリアンは左胸に刻まれた印が熱を持って疼くのを感じた

その意味は…







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2017/09/17
*あとがき
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