英雄の兄と落ちこぼれの妹

□最高の誕生日
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薄暗い寝室

天蓋付きのベッドで眠る少女の元へ黒猫が忍び寄る

ベッドに掛かる薄いカーテンを擦り抜け、穏やかに眠る彼女を見下ろす黒猫

少しの間見つめていた黒猫だったが、不意に動き出した

眠る彼女の唇にそっと口付けた黒猫

そしてその黒猫は次の瞬間、魔法が解けるかのように見目麗しい成人男性に変わった

正確には少女から魔力を貰って実体化しただけなのだが


「…リアン」


少し掠れた低い声で耳元に口を寄せて少女の名を呼ぶ彼

何度か繰り返せば、深紅と翠の瞳を覗かせる少女、リアンに彼女と同じ深紅の瞳を持つ彼は目を細める


「誕生日おめでとう」

『ゔぉる?』


寝起きで舌足らずなリアンにヴォルと呼ばれた男は僅かに笑みを浮かべる


「着替えろ
貴様の誕生日だとレギュラスが張り切っていた
それに今年は…俺様からも特別にプレゼントをやる」


寝起きの頭で理解しきれていないリアンを無視してヴォルは彼女の杖を手にする


「あいつに先を越されたのは癪だが…
ここが空いているからまぁ良いだろう」


そう言ってヴォルが手を這わせたのは二次性徴で服に上からも主張するようになったリアンの胸

正確には左胸の心臓部分だ


「阿呆とはいえ腐っても俺様の過去か…
癪ではあるが趣味は同じだな」


リアンの寝着代わりのシャツをギリギリ見えない程度にズラし、杖先を押し当てたヴォルにリアンも流石に意識が覚醒してくる


『ヴォル…?
なにを…』

「闇の印の様に痛みは与えない
俺様へ印を付ける権利もやろう
肉体を取り戻した暁には同じ場所に…」


そして寝起きの意識が一気に覚醒する程の熱がリアンの体を襲う

衝撃のあまり声を上げそうになるが、その前にヴォルがその唇でリアンの口を塞いで悲鳴を飲み込んだ

ヴォルにキスされた事よりも、その身を蝕む熱にリアンは思考を奪われる

熱に苦しむリアンの気を紛らわせようとヴォルがリアンの口内を蹂躙し、舌を嬲る

印を刻み終わってもリアンが酸欠寸前になるまでヴォルはリアンと深く交わる

そしてようやくリアンを解放し、空気を求めて必死に喘ぐ彼女を見下ろしながら、ヴォルは上下する胸に刻み付けられた印を指でなぞる

赤黒い薔薇と白く少し枯れた薔薇と、ヴォルのペットである雌蛇のナギニによく似た蛇が薔薇を囲んで牙を剥いていた

心臓と同じ大きさの薔薇を囲む蛇はまるで心臓を締め付けているかの様で…

その出来栄えに満足したヴォルはリアンに杖を返してすぐに黒猫の姿に戻る


「朝食はもう出来ている
早く着替えて降りてこい」


そう言ってさっさと出て行ったヴォルをリアンは呆然と見つめていた

呼吸も整い、意識がはっきりした所でリアンはキャパシティオーバーになって枕に顔を埋めた


『うぁぁぁぁあああ…
ぁ…そう、いえば…』


ふと顔を上げたリアンはベッドから降りて鏡の前に立つ

そして気付いた己の体の変化

ちょうど心臓の上辺りにはっきりと刻み付けられた印


『誕生日プレゼント…?』


寝起きで曖昧だが、確かそう言っていた気がする

わざわざ人型になってまでリアンに与えたヴォルの印は、レギュラスやリドルに与えられたものより鮮やかにリアンの肌を彩っている

リアンは久しぶりに見たヴォルの本当の姿やその唇の感触に中々頬の赤みが取れず、やきもきしながら服を着替えた

服に完全に隠れる場所

けれども決して忘れられない場所

着替えや入浴時に絶対に見える場所

そして心臓の上なこの場所にわざわざ印を刻み付けた意味は?

リアンは答えが出ないままヴォルとまた顔を合わせなくてはいけないと思うと溜め息が出た


『ヴォルもリドルも強引なんだから…』


小さく不満を漏らしつつ、リアンは部屋を出て食堂に向かった







2017/09/10

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