英雄の兄と落ちこぼれの妹

□小さな王との再会
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今年の夏休みは最悪と言っても良かった

ダドリーが持って帰って来た学校の通信簿に養護の先生からダイエットをするように書かれていたのだ

年々体格が横に広がっていっていたのはハリーもリアンも知っていた

だが学校側からの適切な言葉で書かれた端的な報告にダーズリー夫妻はぐうの音も出ずに従うしかなかった

散々癇癪を起こし、言い争いをし、ペチュニアがたっぷり涙を流した後から食事制限が始まった

元々満足な食事を出される訳でもなかったのに食事制限を始められれば、ハリーもリアンもたまったものではない

だがペチュニアはダドリーのやる気を保たせるためにはハリーやリアンより沢山食べられると思わせる事が効果的だと思っていた

実際にそうだから反論の余地も無い

ハリーはすぐさまヘドウィグを飛ばして友達に助けを求めた

一方リアンは、サラの魔法やドラコからのお菓子で食事を補っていた

だがそんな生活をヴォルやサラ、リドルが快く思うわけもなく


「すぐにこの家から出るべきだ」

「ドラコの家に誘われているんだろう?
何ですぐに行かないんだい?」

『約束があるの
それにサラには悪いとは思うけれど、バーノンおじさんもペチュニアおばさんもハリーが自分の名付け親が殺人鬼のシリウスだって言ってから悪い扱いではないんだよ
今回の食事制限だってダドリーもしてるし…』

《だからと言って今は体を作るのに大事な時期なのにこんな食事で…
私が居なければどうなっていたことか…》


サラには感謝しても仕切れない

リアンはそう思ったがそれでも約束の為にもう少し我が儘を我慢して欲しいと願った

左の手首から手のひらまであるしし座の紋様を眺めながら、リアンは遠い過去で出会った彼を思い馳せた


『予言通りに行動してしまったけれども…
悪い事ばかりではないのね』


リアンはサラに貰った予言の玉から自分に関係する予言を聞いていた

その予言通りリアンは小さな王、レギュラスを助けた


「予言を…知っているのか?」


怪訝そうに、だが興味がある様子のヴォルにリアンは予言の玉をモークトカゲの革製巾着袋から取り出した


《リアン》

『別に良いよ
それに片方の一部はヴォルだって知っているはずだよ』


咎める様に名前を呼ぶサラにリアンは気にせず予言の玉をヴォルの前に翳した


闇の帝王を変える力を持った者達が近付いている
七つ目の月が死ぬ時、帝王に三度抗った者たちに生まれる
そして闇の帝王はその者達を自分の比肩する者として印すであろう
しかし彼らは闇の帝王の知らぬ力を持つであろう
帝王の力を打ち破る者と帝王を救う力を持つ者
一方が他方の手にかかって死なねばならぬ
なんとなれば、一方が生きる限り他方は生きられぬ
だが救いの力を持つ者が手を差し伸べた時、新たな未来を切り開く事ができるであろう
闇の帝王を変える者達が、七つ目の月が死ぬ時に生まれるであろう



『これがおそらくぼくとハリーの予言
でもこの予言っていい加減だよね』

「…なぜそう思う?」

『だってヴォルが存在しているのにぼくたちは生まれた
そしてヴォルの力を奪えども命は奪えなかった
だから予言の“一方が生きる限り他方は生きられぬ”って部分は矛盾してる
ヴォルが生きていてもぼくたちは生きているんだもん』


だいたい予言は道筋だ

その通りにするのも、背くのも

全ては本人次第


『だからね、ヴォル
振り回されちゃダメだよ
まぁぼくはもう一つの予言を知らずに従ってはいたけど、仮に知っていても変わらない
自分を見失っちゃいけないと思うんだ』


そう言って微笑むリアンは常には足りぬ自信に満ち溢れていて、まさに予言通り救いの力を持つ未来を切り開く者に相応しかった

だがその一方で救いの力を持ち、未来を変える力があると予言されたせいでリアンはハリーの守りの要として制約魔法を掛けられたとも言える

予言のせいで散々な思いをしてきたリアンだからこそ、予言を頼りにせずに真っ直ぐ未来を見据えられるのだろう


「…フン、どうせ予言はあの占い学の女が出したものだ
もうアテにはしていないさ」

『うん
未来を知っていても良いこと無いって聞くしね
知っている事は怖いことなんだって』


かつての自分がリアンの言葉を聞けばバカにするだろう

無知こそ罪だと

だが今はリアンの言うことも一理あると受け入れられる

闇の帝王を“変える者”というのはこういう事なのだろう

ハリー・ポッターもある意味では闇の帝王を変えた

確かに予言は当たる

だがそれが全てではない







2017/08/24

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