英雄の兄と落ちこぼれの妹

□名付け親
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寮に戻ったリアンにサラはすぐさま人型に戻り、ベッドに座るリアンの足元に膝を着いてリアンの表情を伺う

まるで人形の様に表情が抜け落ちたリアン

リドルも実体化してリアンの隣に座った


「リアン
何か口にした方がいい
夕食に行くのは無理そうだし、何か食べ物を貰ってこようか?」

『…いらない
お腹空いてない』


少し顔を上げれば心配そうな表情のサラが見え、右隣にはリドル、左隣にはヴォルが様子を伺っている

その事にリアンはゆるりと口角が上がるのを感じた


『そんな顔しないで
二人の方が大丈夫なの?
サラなんて壁に叩き付けられてたし…』

「その糞猫とは違うからな
私は大丈夫だ
咄嗟に魔法で防いだ」

「うるさいぞ
みすみす愚兄に捕まったくせに何を言うんだか…」

「それはあんたもだろ耄碌爺」


血が繋がっているのに仲が悪いヴォルとサラ

オマケに同一人物の筈なのにヴォルとサラよりもっと仲が悪いヴォルとリドル

そんな三人にリアンはふふ…と笑みをこぼす


『よかった…
もう二度とあんな事にはならない様にする
あんなの家族なんかじゃない…
ぼくの家族はヴォルとサラ、リドルとマルフォイ家の人達だけだ
そう考えるとぼくって幸せ者だね』


みんなが一緒に居てくれるんだから…

そう言って目を細めて笑うリアンにサラは安心する

魔力の安定もそうだが、“守護霊の呪文”には幸せな思い出や気持ちが必要不可欠だ

リアンには“守護霊の呪文”を使うのは不可能かとも思った

リアンはあまりに辛い思いをし続けた

そう言った生い立ちの者は“守護霊の呪文”が使えない者も少なくない


「リアン、例え魔法契約が無くとも
私はずっと側に居る
“破れぬ誓い”を立ててもいい」

「ちょっと
リアン、こんな若作りの爺なんかより僕の方がずっと側に居てあげる
だからこんなやつ無視していいよ」

「この糞ガキ…
殺してやろうか」


邪魔されたサラは苛立ちを隠そうとせずにその深紅の目を怒りで光らせる

リドルはそんなサラを鼻で笑いながらリアンのポケットから自分の媒体のロケットを出す


「ほら、次にあんな事があれば外せない様に呪いかけるから
気にせずあんな奴、忘れて仕舞えばいい
リアンの記憶に残ることすらも烏滸がましい」

『…ありがとう
そうだね、いっそ外せなくした方がいいかもしれない
そうしたらリドルもサラみたいに離れられなくなるし
そうじゃなくても一緒に居てくれるとは思うけど…』


リアンの言葉にリドルは固まり、ヴォルとサラは目を見開いた


『…冗談だよ
もう、リドルってば…
そんな簡単に人に呪いなんて掛けちゃいけないんだからね
分かってるの?』

「う、ん…
そうだね」


歯切れの悪いリドルにリアンは笑顔を向けた

それはまるで学生時代の自分の様で…(リドルは16歳の記憶なのでまだ学生ではあるが)

全てを隠すような笑顔をこの子はいつからする様になったのだろうかと思いながら、リドルは食べ物を取りに出て行き、サラはリアンの目の腫れを魔法で癒し、ヴォルはリアンの膝に乗ってリアンに撫でられるのを甘んじて受ける

それは必要以上に触れられるのを避けるヴォルの最大限の慰めだった

ヴォルはリアンが開けっ放しにしている“忍びの地図”を見て、目を細めた

浮かんでいる名前の中にある一つの名前に

ヴォルは密かに決意する

今度は…

失敗は出来ない







2017/08/19

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