英雄の兄と落ちこぼれの妹

□最悪の誕生日
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「さて、皆も知っての通り、今日は非常に大切な日だ」


ハリーが顔を上げるのが見えた

バカなハリー

今日は確かにぼくらの誕生日だけど、ダーズリー家の人達が祝う訳がない

ダドリーの誕生日な訳じゃないのに…


「今日こそ、わが人生最大の商談が成立するかもしれん」


また顔を俯かせたハリーをリアンは一瞥して溜め息をついた

面倒な商談は嫌だが、ハリーのご機嫌とりはもっと嫌だ


「さて、もう一度皆で手順を復習しようと思う
八時に全員位置につく
ペチュニア、お前はどの位置だね?」

「応接間に
お客様を丁寧にお迎えするよう、待機してます」


即座に答えるペチュニアにバーノンは満足そうに頷いた


「よし、よし
ダドリーは?」

「玄関のドアを開けるために待ってるんだ
メイソンさん、奥様
コートをお預かりいたしましょうか?」


バカみたいな作り笑いを浮かべて台詞を言ったダドリーにヴォルは鼻で笑い、リアンはヒクリと口の端をひくつかせた

ホグワーツではドラコ筆頭に、スリザリンでは貴族が多い

必然的に気品のある上品な振る舞いを常々目にするのだ

スネイプ教授もふとした仕草がとても上品だ

人間の時のサラも、とても気品がある

そんな人間ばかりが周りに居たリアンにとって、ダドリーの振る舞いはおままごとにしか見えなかった

だがペチュニアはそうは思わなかったのか、「お客様はダドリーに夢中になるわ!」と狂喜して叫んでいた


「ダドリー、上出来だ
それで、お前達は?」


バーノンはダドリーに笑顔で言ったが、ハリーやリアンには荒々しく向き直った


「僕は自分の部屋にいて、物音をたてない
いないふりをする」

『ぼくも物置で静かにして、いないふりをする』


ハリーとリアンは一本調子で応えた

二人の答えにバーノンは嫌味ったらしくその通りだと言い捨てた


「わしが応接間へと案内して、そこで、ペチュニア、お前を紹介し、客人に飲み物をお注ぎする
八時十五分…」

「私がお食事にしましょうと言う」

「そこでダドリーの台詞は?」

「奥様、食堂へ案内させていただけますか?」

「なんて可愛い私の完璧なジェントルマン!」


リアンは段々と呆れを通り越して笑えてきた

クスクスと小さく笑っているとヴォルに小突かれた

慌てて咳払いして無表情を作った


「それで、お前達は?」

「自分の部屋にいて、物音をたてない
いないふりをする」

『ぼくも物置で静かにしていないふりをする』

「それでよし
さて、夕食の席で気のきいたお世辞の一つも言いたい
ペチュニア、何かあるかな?」

「バーノンから聞きましたわ
メイソンさんは素晴らしいゴルファーでいらっしゃるとか…
…まぁ、奥様、その素敵なお召し物は、いったいどこでお求めになりましたの…」

「完璧だ
…ダドリー?」

「こんなのどうかな?
“学校で尊敬する人物について作文を書くことになって、メイソンさん、ぼく、あなたのことを書きました”」


ハリーもリアンも吹き出してテーブルの下で大爆笑した


「それで、小僧、小娘
お前達は?」

「僕は自分の部屋にいて、物音をたてない
いないふりをする」

『ぼくも物置で静かにしていないふりをする』


二人は笑いを堪えてテーブルの下から顔を上げてバカの一つ覚えみたいに単調に同じ台詞を言う


「まったくもって、その通りにしろ
メイソンご夫妻はお前達のことを何もご存知ないし、知らんままでよい
夕食が終わったら、ペチュニアや、お前はメイソン夫人をご案内して応接間に戻り、コーヒーを差し上げる
わしは話題をドリルの方に持っていく
運がよけりゃ、“十時のニュース”が始まる前に、商談成立で署名、捺印しておるな
明日の今ごろは買い物だ
マジョルカ島の別荘をな」


やっと解放されると思い、そっと溜め息をつくリアン

長かったなぁと思いつつも終わってよかったという感じだ


「よーし、と…
わしは街へ行って、わしとダドリーのディナー・ジャケットを取ってくる
それで、お前達は…
…お前達は、おばさんの掃除の邪魔をするな」


ハリーとリアンは裏口から庭に出た

ハリーはリアンの手をとり、芝生を横切ってガーデン・ベンチに座る

リアンも手を引かれているので一緒に座った


「リアン、お誕生日おめでとう」

『ハリーもお誕生日おめでとう』


ハリーは嬉しそうにリアンにぎゅーっと抱きついた


「ロンもハーマイオニーも皆手紙もくれないんだ…
でもリアンが居てくれるから僕、我慢出来るよ」

『そう…』


にこにこと上機嫌に話すハリー

手紙が来ないのはリアンも一緒で、不審に思ってはいるものの、どうしようもないので諦めていた

ふと生け垣から視線を感じた

視線を感じた方へ顔を向ければ、葉っぱの中から二つの大きな緑色の目が現れた

ハリーは弾かれたように立ち上がり、リアンは驚いて目を見開く

生け垣を見つめていると、芝生の向こうからダドリーがやって来るのが見えた


「今日はなんの日か、知ってるぜ」


ダドリーはニヤニヤして立っていた

リアンは面倒だと溜め息を吐いてヴォルを見れば、ヴォルは今にもダドリーに飛び掛かりそうだ


「そりゃよかった
やっと曜日がわかるようになったわけだ」


ハリーは冷たく言い放つがダドリーはめげなかった


「今日はお前らの誕生日だろ
カードが一枚も来ないのか?
あの変てこりんな学校でお前らは友達も出来なかったのかい?」

「僕らの学校のこと口にするなんて、君の母親に聞かれない方が良いだろうな」


リアンもダドリーがホグワーツのことを口にするとは思わなかったために訝しげにダドリーを見つめた

だがダドリーはハリーを見ていてリアンの視線に気付かないようだ


「なんで生け垣なんて見つめてたんだ」

「あそこに火を放つにはどんな呪文が一番いいか考えていたのさ」


薄笑いを浮かべながら言うハリーにダドリーは恐怖に引き攣った表情を浮かべる


「そ、そんなこと、出来るはずない…
パパはお前に、ま、魔法なんて使うなって言ったんだ…
パパがこの家から放り出すって言った…
そしたら、お前らなんてどこも行くところがないんだ…
お前らを引き取る友達だって一人もいないんだ」


リアンはこの後の展開が読めたので、二人の気がリアンに向いていない今の内に庭を去ろうと動いた

リアンが物置に着く頃にはダドリーは叫び声を上げていた


「ママーァァァァァ!
ママーァァァ!
あいつがあれをやってるよ!」








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