一年前の出来事がフッ…と、頭を掠めた―――



あの日は…そうだ、冷たい雨が降っていた

その中で私は、腹からドクドクと血を流しながら倒れていた

(死にたくない…)

ただ、その思いだけが私の思考回路を支配していて

(死にたくないよ…!)

ゴボリ、と口からおびただしい量の血が流れた

ゼィゼィと息は荒くなり、視界も虚ろになって来た

調度その時だった

その男が私の目の前に現れたのは…

ザアアァァァ…と雨が降りしきる中、その男は傘もささずに、じっと私を見詰めていた

男は私の周りにある醜い屍を見ながらいった

「これやったのァ…お前ェだろ?」

私は力無く頷いた

真っ赤だった視界に混じる紫

「お前ェ…生きてェか?」

私は荒い息で答える

「生き…たいっ…!」

「よし」

男は私をひょいと抱き上げると、私の顔を覗き込んで問うた

「俺と共に来い。俺の元でその力を振るえ。そう約束するなら…助けてやるぜ?」

答えは、はなから決まっていた


それからの日々はとても充実していて、そして幸せだった

みんな優しかったし、仕事も今までやっていたこととさして変わりはしなかったから、辛くもなかった

ただ…その“日常”は私にとって酷く退屈で、代わり映えしなかった

そして、今

私はあの日と全く同じ風景を見ている

ただ一つ変わったのは、降りしきる冷たい雨が雪に変わったことぐらい

棄てられたゴミも醜い朱も、雪はゆっくりと隠していく

そして、朽ちようとしているこの私も

目の前にはまた、あの男…高杉晋助


高杉はまた、あの日と同じ質問をしてくる

「生きてェか?」

私は―――

「……………」

黙って首を横に振った

高杉はそんな私を問い詰めるでもなく罵るでもなくただ小さく

「そォか」

と答えて、煙管をくわえた

その沈黙が、心地よかった

出来るならずっとそうしていたいと思うくらい

だけど、別れはやってくる

私は静かに

   目を閉じた―――












全てを隠した白い雪


貴方の顔も私の顔も
  醜い紅もこの感情も


緋月死ネタでした
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