一夜
□ニセモノノメ
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俺には眼が無い。
有ることには有るのだが、生まれつき盲目だから無いと同じことになる。
見るという機能を失くしたこの眼は、只額と鼻の間にある二つの違和感としか俺には認識できない。
色というのは、一体どんな姿をしているのか。
光というのは、一体どんな存在なのだろうか。
眼の無い俺には其れを知る事が一生出来ないのだろう。
なんて勿体無い。
『ニセモノノメ』
五感と言うものは、一つでも失うとほかの官にその分を振分けられるらしい。
俺は眼が見えない代わりに、聴覚と嗅覚が良かった。
眼が見えないのをいいことに、少々の悪いことをしても御館様は『威勢の良い事だ』と笑って許してくれた。
そこに浸けこんで、幸村達に色々な悪戯をしまくった。
其れと同じくらい佐助には怒られたが。
俺は眼が見えない代わりに、聴覚が良かった。
少しでも音がすると、大体の方向は判ったし 物の大きさ、軽さ、重さ、表面的なものが判った。
おかげで生活にも複雑な事を除けば不便はしていない。
俺は眼が見えない代わりに、嗅覚が良かった。
遠くにある火薬の臭いは、誰よりも先に察知した。
おかげで戦にも足手まといにはなっていない。
だけど眼が見えないから御館様も幸村も、佐助も声しか知らなかった。
「手、貸して」
そうやって佐助に言われた俺は、疑いも無く手を差し出す。
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