一夜

□ニセモノノメ
1ページ/4ページ




俺には眼が無い。
有ることには有るのだが、生まれつき盲目だから無いと同じことになる。
見るという機能を失くしたこの眼は、只額と鼻の間にある二つの違和感としか俺には認識できない。

色というのは、一体どんな姿をしているのか。
光というのは、一体どんな存在なのだろうか。

眼の無い俺には其れを知る事が一生出来ないのだろう。

なんて勿体無い。





『ニセモノノメ』






五感と言うものは、一つでも失うとほかの官にその分を振分けられるらしい。

俺は眼が見えない代わりに、聴覚と嗅覚が良かった。


眼が見えないのをいいことに、少々の悪いことをしても御館様は『威勢の良い事だ』と笑って許してくれた。

そこに浸けこんで、幸村達に色々な悪戯をしまくった。
其れと同じくらい佐助には怒られたが。



俺は眼が見えない代わりに、聴覚が良かった。
少しでも音がすると、大体の方向は判ったし 物の大きさ、軽さ、重さ、表面的なものが判った。

おかげで生活にも複雑な事を除けば不便はしていない。


俺は眼が見えない代わりに、嗅覚が良かった。
遠くにある火薬の臭いは、誰よりも先に察知した。

おかげで戦にも足手まといにはなっていない。


だけど眼が見えないから御館様も幸村も、佐助も声しか知らなかった。




「手、貸して」




そうやって佐助に言われた俺は、疑いも無く手を差し出す。






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ