庭球

□守るから
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「もしもし?」


「俺、今から家行ってい?」



ブン太から電話がかかってきた

いつもなら電話なんかしないで
勝手に家に来るのに…


「あぁ。いいけど…
なんかあったのか?」


「後でいう」


そう言うと電話を切った

ブン太はあきらかに様子がおかしい

とてつもなく元気がなかった

今まで一緒にいて
こんなことは一度も無かった


俺は訳のわからない
不安に胸を締め付けられていた




すぐにインターフォンが鳴った


ドアを開けるとブン太が少しうつむき加減で立っていた

「どうしたんだよ」


しかし俺を見上げた瞬間暗かったその顔が
崩れた


「ジャっ…カ…っ!!!!」


目からは大粒の涙がボロボロ零れた


「おっ…おい!!!どうしたんだよ…!取りあえず俺の部屋へ来い」


ブン太は何にも喋らず
小さく頷くと俺はブン太の手を引いて部屋に行った



俺が部屋のドアを閉めた瞬間

ブン太は崩れるように座った
そして大声で泣き始めた

「おいっ!!!一体どうしたんだよ…」


俺はブン太の前に座り
聞いた


ブン太の嗚咽の合間の途切れ途切れの言葉に
俺は何も言えなかった




ブン太の両親は離婚するらしい



それをさっき聞かされたらしい

ブン太と弟たちはおばさんと一緒に暮らすらしい

ブン太がここまで泣くのは
きっと2人はそんな素振りがなかったからなんだと思う


俺から見てもあんなに仲の良い家族は
あんまり見たことがない
ブン太はおじさんも大好きだ

なのにもう一緒に暮らせない



ブン太がようやく落ち着いたのを確認して
俺はおばさんに電話をかけると言って部屋を出た

実は冗談だった


そんな言葉を期待していたのかもしれない


でも、そんなはずはなかった


おばさんは申し訳なさせうに俺に誤った

そしておばさんに
ブン太が帰りたくなるまで一緒にいてやってほしいと言われた


電話を切り

俺はギュッと目を瞑った
少しだけ不安だった
これからのブン太を俺は支えていけるのか


そう思いながら部屋に入った



俺は部屋に入って息を呑んだ


「ブン太っ!!!!!!」



放心状態で座り込んでいるブン太の左手首からは血が流れていた


ブン太の側にはカッターが落ちていた



俺はブン太の左手を握って抱きしめた


「すまねえ…!!俺が悪かった!!今のお前を独りになんかして…!!」


いつの間には俺の目からも涙が流れていた


ブン太はそんな俺を見て

右手で俺の服の裾を掴んだ


「…ごめん。ジャッ…カルまで泣かせちまった…」


その声と力はすごく
か弱くて…


「俺がお前を守るから…っ!!!」


その言葉にブン太はギュッと目を瞑り力無く笑った




その笑顔を見て俺は決意した

これから先何があってもブン太のことは

俺が守ってやると誓った





fin.


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