二年後設定銀桂話

□かまっ娘倶楽部のエース
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難攻不落の鉄の街、あるいは夜の街、かぶき町に、その店はある。

かまっ娘倶楽部。

かぶき町で豪傑としてその名を知られる西郷特盛の店である。
店員であるかまっ娘は特盛のような青ひげタイプが多い。

そんな中、タイプの異なるふたりのエースがいる。
ひとりは、かつては将軍の指南役も務めて天下の柳生流とも呼ばれた名家の御曹司から華麗なる転身をとげた柳生九兵衛。
きりりとした美少女キャラとして人気を博している。
そして、もうひとり。
ヅラ子という源氏名だけが知られていて、経歴などは不明の美人だ。
長い黒髪は艶やかで、前髪も長く右眼を隠している。
顔立ちは端正。
綺麗、優美、上品、という言葉が浮かんでくるような顔である。
つい眼が行く。
そんな顔に化粧が施されると、大輪の芍薬のような華やかさになる。
身体は九兵衛のように華奢ではないが、すらりとしている。
チャイナドレスの深いスリットからのぞく脚は、形良い。
正統派の美人であり、身持ちの堅いことで知られているのだが、その引き締まった身体から色香がまるで花気のように漂う。

そんなわけで。

「ヅラ子さん、あなたのために、これを」
今夜も、ヅラ子めあての客がやってきている。
ヅラ子、いや、桂は店の席に座ったまま、客がさしだした花束を受け取った。
薔薇の花束だ。
色はすべて深紅で、本数は三十本ぐらいか。
ボリュームがある。
桂はそれを眺める。
花束を受け取るまえと比べて、表情はあまり変わっていない。
そこに。
「ヅラ子さん」
別の客があらわれた。
「これを受け取ってください!」
そう言ってさしだしたのは、ぬいぐるみだ。
茶トラの猫のぬいぐるみである。
桂は切れ長の眼を大きく開いた。
その眼はじっと猫のぬいぐるみを見ている。
「もらってもいいのか……?」
そう問いながらも、その手はすでにぬいぐるみのほうに伸びていた。花束は横にやられている。
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