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□dream is not coming
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少し前くらいだろうか。多分、一週間くらい前。私が風邪をこじらせて学校を休み始めたのと同じくらい。
その辺りから、私と同じ人間がこの世界に来たのは感じていた。
だから、休み時間に入ってすぐ、クラスの一部がざわついた時は来たかと、ほんの少しワクワクしていたのだ。



「あれ、またあの人だよ」
「本当だ。懲りないね」

「………どうかしたの?」


きっと、彼女だ。
少しの興奮を抑る。通学鞄から取り出しかけた本をまた戻して、前で話していたグループに話しかけた。


「ああ、あの人だよ。三年の××先輩」

「……?」

やはり聞かない名。言われても今ひとつぴんとこなかったからか、言われてぽかんとしてしまった。

「そう言えばあんたは休んでたよね。先週、中三に転校生が来たんだよ」

「へぇ…どんな人なんだろうね」


私がそう言った途端、急に一人が眉間に皺を寄せて、視線を教室の隅に向けた。


「…あれだよ」


彼女がそう言って、ため息混じりに呟いた直後、獄寺の怒鳴り声がクラスに響いた。

「てめぇ!!軽々しく十代目に近づいてんじゃねぇ!!!」

「何よ!!十代目云々の前にまずアンタは先輩に敬語を付けなさい!!」

「うるせぇ!!」


怒鳴る、というより吠えたと思うのは私だけなのだろうか。まあべつにいいけど。

「まあまあ落ち着いて、獄寺くん。…先輩、次移動教室なんでオレ達そろそろ失礼しますね」


「そっかぁ、なら私も戻るよ」



彼ら周辺の空気と言うか、雰囲気と言うか、とにかくそういったものの温度差に唖然とした。
…彼女は、気付いてないのだろうか。


相手にしたくないのか、貼り付けたような笑みで先輩をあしらう沢田。
…んんん?…なんか、性格違くないか?



「彼女。転校初日にね、自分から沢田たちに絡んできたんだよ」

「学年も違うし、そもそも転校してきたばっかなんだから接点無いはずなのに」


彼らを眺めながら、皆ぽつりと言葉をもらす。


「ていうかさ、中三でしかも時期はずれって、急な転勤にしても普通は転校なんてしないよね」

「受験とかどうするんだよって」

「そう言えばお姉ちゃんから聞いたんだけど、××先輩って女の子には愛想悪いんだって」

「あ、それ私も聞いた」

「マジで?じゃあ他人の彼氏寝取ったって噂、本当なのかな」

「えー!!何それヤバくない?」


こそこそと、噂話をするその他の生徒達には目もくれず。ただ只管沢田達に話し掛ける彼女を一瞥してから、取り出した本に目を向けた。
みんなから総スルーされてる彼女を見て、少し混乱してきた。普通なら、彼女は所謂逆ハーポジションになるはずなのに。

読書をするフリをして、そっと教室を出て行く彼女を盗み見た。
彼女の僅かに歪んだ顔。みんなの彼女を見る白い目に、だんだん気持ちが冷めていく。…なんだか残念な気分になってきた。なんだ、期待はずれか。

彼女を盗み見るのをやめて、また本に視線を戻す。
教室も、またいつものように賑やかになった。


「あれ、次の授業なんだっけ」


「数学だよ。ねえ、宿題やった?」


「なんだ、沢田が移動教室だとか言うから吃驚しちゃった。え、宿題?今日答え合わせ当たらないからやってないよ」



聞こえたその会話に、苦笑がこぼれた。




夢はやってこないのよ






その日の崩壊後、誰もいない教室で泣き崩れる彼女を私は知らないフリをして素通りした。

なんで、なんで愛されないの…?と繰り返す彼女に、どうせ現実なんて、こんなもんだ、と呟いた。


まあ…そうだよね。結局、どんなに頑張っても、異物は正規の役者にはなれないんだって。
彼女も、最初から諦めて見学してれば良かったのに、ね。









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レンズ越しに見た世界様提出作品。

ちなみに初参戦です。




20101107
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