タイムリミット

□昨日の今日、今日の今日
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朝、7時。


工事現場に野太い男の声が響いた。

「オイ新入り、昨日から徹夜だろ? そろそろ休みいれねーと倒れんぞ」


「はーい」


監督の声に促され、マームは休憩場へと足を進める。


『やっぱり徹夜はきついな…。
監督の言う通り休みを入れてよかった』


布団の中に入ると今までなかった疲労感が押し寄せ―


「ッ…う!」


突然頭の中に“今日”の記憶が流れ込んで来た。

寝ている自分。
痛みが駆け巡る体。
現場に居る人たちの声。
ぼやける意識。
血に染まる地面。
その中に横たわる自分。



「ぐ…あッ、があぁああ!!」


頭を割られ脳に直接熱した熱を入れられているかの様に、頭の中が熱い。
とてつもない激痛に狂いそうになりながらも耐え、マームは布団に身をうずめた。

矢先


死ぬ…ッ


思うよりも早く体は動き、マームは休憩場から飛び出した。

次の瞬間―


大きな地響きと耳を劈く轟音が響いた。

マームはゆっくりと後ろを振り返ると、そこには砂埃の中に姿を隠す休憩場。
やがて、砂埃は消えてゆき、現れた現状に言葉が出なかった。

休憩場を突き壊し、地面に深々と刺さる鉄鋼。


死んでいた。

あのまま寝てたら、アレの下敷きに…
…いや、もしかしたら突き刺さっていたかもしれない…。


「マーム!!」


血相を変えて走ってくる現場の人たち。
その先頭を走る1人の作業員の声に放心状態の意識が少しだけ引き戻される。


「あ…、え……」


「無事か!」


「な…なに、なに……が……」


上手く言葉が出なかった。
頭はこんなにも冷静なのに……。


「鉄鋼を持ち上げていたクレーンが壊れて、鉄鋼が落ちたんだ。
その所為で…1人…、作業員を庇って…死んだ……」


「だ、だれ…が…」


「……監督だ」


何万回目の今日。
マームは4月22日を生き残ることに成功した。


 
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