BRY 〜便利屋〜

□依頼到着
1ページ/5ページ


モミジは無言で、悲しそうな、悔しそうな視線を靴箱へと向けていた。

靴箱に入っている上靴。

当たり前のように中にゴミが入って、ジュースの匂いをさせている。


「……」


「きったねぇ」

「ほんっと隣の俺の靴にまで匂いつくぜ」

「さっさとそれ処分しろよなー」


「………」


「だんまりかよ」

「なんか言えよ、気持ちわりぃな」


靴箱の前に立ちつくす僕の頭に、食べ終えたお菓子の袋を投げつけて教室に向かっていった奴ら。


…情けない…。
もっと、ちゃんと…
しっかり…言い返したいのに、怖くてできない…。

…情けない…っ


「…う…、…く…っ…」


涙が頬を伝い流れ落ちた。

情けない


本当に情けない…。


涙が流れかけたとき、鈴の音が聞こえた。


「また泣いてんのかよ、テメェそれでも男か? あぁ?」


背中にかけられるキツイ口調の言葉と、鈴の音。

振り返ると其処に居たのは、


「あ…西先輩…」


智乃さんとよく一緒に居るミナミ先輩の友達の西高先輩がそこに立っていた。


「うっとうしい、さっさと泣き止め、それが無理ならもう学校くんじゃねーよ」


「っ…な、いてない…」


制服の袖で涙を拭って目の前の男を睨みつける。


「泣いてんだろうが、赤い目もっと赤くして何言ってやがる」


それでも西高先輩はケラケラ嫌味に笑って、僕が気にしている事をサラッと言ってくる。

…この人のこういう所が大嫌いだ。


「泣いてないって言ってるだろ!」


「…そーかい」


僕が大声を出して真実を否定すると、西高先輩はにやっと笑い、鈴の音をさせ階段をのぼって行ってしまった。


「なんだよ…あの人は…」


西高に対する怒りで、モミジの中には上靴を汚された、という悔しさ。
クラスメイトに対する陰湿な嫌がらせへ反論できない己への情けなさは消えていた。


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ