another world 〜別の庭〜
□十五夜の下の薔薇と蝶
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デスリート内にある裏路地の奥にある、壊れかけたビルの屋上に上る2つの影。
1つは黒い中折れハットに、白いシャツと黒いベスト、そして黒いパンツ、緩められた黒いネクタイ、という格好をした蝶。
そしてもう1つは、赤いフード付きのパーカーに黒いシャツ、明細柄の少し大きめのパンツ姿のバラ。
先頭を歩く蝶の足取りは軽く、飛び跳ねるようにいつ壊れるか分らない危ない階段を上がって行く。
「つっきみ つきみー♪」
「テンション高ェな」
「あ? だって月見で団子だぜ? 楽しみで仕方ねーや」
いつもならけだるげな声が、この時だけは子供のように明るく浮かれている。
「…の、味覚ガキが」
呆れた様な、ほほえましいような、そんな笑みを浮かべるバラの言葉は蝶には届いていないようで、蝶はどんどん先に踊るように上がって行った。
ドアを開けると、冷たい風が吹き抜ける。
飛ばされそうになる帽子を手でおさえ、蝶はドアをくぐり抜け亀裂が目立つ灰色のコンクリートの屋上へと躍り出る。