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□時間と少しの自惚れ
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「ネージ」
名前を呼べば、目線は本からこちらへ向けられる。
その眼はとても優しくて。
昔のネジの眼は、正直苦手だった。
何もかもを見透かされているような気がして、あまり目を合わせようとは思わなかった。
でも彼の眼は、いつも悲しげに見えたから。ネジに出会ったのはアカデミーの頃だけど、そのときから悲しげなその眼が、寂しそうな彼がずっと気になっていた。
でも今、私に向けられるその眼は本当に優しい。彼は本当に変わった。
「どうした」
「別に何でもないけど」
「けど?」
「…」
彼は今まで読んでいた本を置いて立ち上がり、私の隣へと座る。
「構ってほしいなら、そう言えばいいものを」
「っ!」
…やっぱり見透かされているのは気のせいではらしい。
「わかってるなら、早く相手してよね」
「それは誘っているのか?」
「ばっばか!違うわよ!」
「冗談だ」
くつくつと笑う彼。
以前ならこんな風に笑うことは、まず無かった。
「お前といると安心する。だからつい読書にも熱中してしまった、悪かったな」
その一言は、私を赤面させるには十分すぎる言葉だった。
end.
→あとがき