V
□台所協奏曲
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トントン、グツグツという音と共に、楽しそうなお喋りが部屋に響く。
「でね!その時にガイ先生ったらね、」
「テンテン、喋るのは全然構わないが包丁を目線の高さまで上げて喋るのはやめてくれ。」
「大丈夫、投げないから早く白眼しまいなさいよ!」
エプロン姿で何とも楽しそうに台所へ立つ2人。
どうやらテンテンが下拵え係で、ネジが調理係のようだ。
「煮付けがそろそろ良さそうだ。味噌汁でも付けるか?」
「そう思って野菜と豆腐も切っておいたの。」
さすがだな、とテンテンへ声を掛け冷蔵庫を開ける。
『ネジのことなんて全部分かってるのよ』と得意げになっている彼女を横目に、何も持たずに冷蔵庫の戸を閉めた。
「残念だ、味噌がない。」
「ええ!それじゃあお味噌汁が出来ないじゃない。買って来ようか?」
「いや、いい。すまし汁にしよう」
そう言って冷静に出汁を取り始めるエプロン姿のネジ。
何だかその光景を急に可笑しく感じ、テンテンは笑いが堪え切れなかった。
「何だ、急に」
「ネジはいつでも、どんな場面でもネジだなあと思っちゃって。」
「…その台詞、そのまま返したいところだな」
「フフッ、多分そう答えるだろうなってところまで私には読めてたわ♩」
得意げに笑うテンテンを見て、釣られてネジも笑う。
そう答えるところまで俺は読めていたがな、等と言うと彼女がムキになるのが分かっているので飲み込んだ。
「すまし汁、お出汁から取ると時間かかりそうね」
「……それは俺も思った。やっぱり味噌買いに行くか?」
「ううん、せっかくだからネジが作ってくれたものが食べたいな」
こういうことを普通に言ってくれるところが、可愛くて好きなんだ。
そう想いにやけた顔は、多分隠し切れなかった。
その証拠に、すこぶる機嫌の良さそうな表情の彼女がこちらを見ている。
「今、照れたでしょ。」
「テンテン、包丁で人を指差すのはやめてくれ」
何とも幸せで良い匂いの漂う、ある日の夕刻の話。
end.
→あとがきというより一人語り