V
□水溜りに約束を
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先のことなんて、誰にも分からないけど。
「じゃあ、また明日ね」
そう言って、勝手に約束をこじ付けたくなるのは。
そう言えば、必ず明日も会えると信じて疑わないのは、どうしてだろう。
ザーッと辺り一面の雨の音が響く早朝。
地面を跳ねる雨の滴は、里の門へと歩く二人の足を濡らした。
「テンテン、風邪を引くといけないから見送りはもうここで良い。」
「ううん、門までは送らせて。こんな雨で風邪引くほど柔じゃないわ。」
言うことを聞かないんだから、とでも言いたげにネジは溜め息を付きつつもどこか嬉しそうに小さく笑って、二人で入るには少し小さめの傘からはみ出て濡れたテンテンの左肩を袖で拭いた。
空を見上げると、どこまでも分厚く広がる鉛色の空。
今日一日は雨が止みそうにない。
この任務中は視界があまり良くなさそうだな、とネジが独り言のつもりで呟いた言葉は彼女の耳に届いた。
「白眼に頼りすぎたらダメだからね。単独任務なんだし、絶対に無茶しないって約束して!」
「ああ、分かっている。」
「私は今日一日非番だから、」
「何かあれば呼んでくれ、だろ。テンテンが言おうとすることは何故だかすぐ分かる。」
何か言いたげな、不安そうな、寂しそうな、複雑な表情を浮かべるテンテンに傘を差し出す。
気付けば木ノ葉の門はすぐ目の前。
ここを抜ければ、ネジの任務は始まる。
「明日の晩は、テンテンが作ったにしんそばが食いたい。」
「うん、準備しておくね。でもご飯の前に、お風呂に入れるように沸かしておくわね」
「さすがテンテン、気が効くな。」
「当たり前じゃない、何年一緒にいると思ってるのよ。」
やっと、彼女が笑ってくれた。
この顔を見ると、何でも頑張れるような気がするなんて言うときっとテンテンは笑うのだろうけど。
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。また明日ね!」
踵を返して走り出したネジの足元から、ピシャリと水溜りがはぜる。
明日、彼が帰る頃には雨は上がるだろう。
とびきり美味しいネジの好物を用意しようと意気込み、まだ彼の体温が残る傘の柄を握りしめて雨の中へと消えていく背中を見えなくなるまで見送った。
end.