日向さんち。

□なぜなぜ期
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「そうして王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしました」



ネジは膝の上に月冴を乗せ、絵本をぱたりと閉じた。


台所には鼻歌を歌いながら夕食の支度をするテンテンの姿。

今日の夕食は何だろうか、と彼女の後ろ姿を見ながらネジは考えていた。



「ねーねー、とーさん」

「何だ?」

「『幸せ』ってなあに?」



目をぱちぱちさせて月冴が尋ねる。


三歳になって、すっかり言葉が達者になった月冴。

色んな言葉を話すことができるようになった分、最近は「これはなあに?」「なんで?」「どうして?」のオンパレード。

今日もまた月冴の「なあに?」が始まった。



「王子様とお姫様は『幸せ』なんだって。それっていいことなの?」

「いいことだと思う」

「じゃあ、『幸せ』はいいこと?」



子どもの言葉は哲学にも似ているように思う。

普段自分が何も思わずに使うような言葉の意味を、改めて考えさせられることが多い。


日中いつもこんなことを考えながら月冴と一緒にいるのかと思うと、ネジは改めてテンテンの偉大さを感じた。



「『幸せ』っていうのは、これがずっとずっと続けばいいなと思うことだ」

「じゃあ、ぼくはかーさんのご飯をずっと食べたいと思うから、これも幸せなんだね!」

「まあ、そういうことになるな」

「ふふっ。月冴にそう言ってもらえると母さんも幸せだなあ」



会話が聞こえたのか、エプロンで手を拭きながらテンテンがこちらを見て口を挟む。



「とーさんとかーさんの幸せってなあに?」



また始まった月冴の「なあに?」に、ネジとテンテンは目を合わせて笑った。



「母さんの幸せは、こうやって父さんと母さんと月冴の三人でこのお家でお喋りすることかなあ」

「お喋りするだけでかーさんは幸せなの?」

「そうね。ずっとずっとお喋りしていたいもの」

「じゃあぼく、ずっとお喋りするー!」

「あら、月冴は随分と親孝行な息子ね」



にこにこ笑うテンテンと月冴を見て、ネジも目を細める。


俺にとっての幸せはーーーー。



「とーさんの幸せはなあに?」

「テンテンと月冴がずっと幸せでいてくれることが俺の幸せ、かな」



その言葉の意味が理解出来ているのかは分からないが、月冴はとびきりの笑顔でネジに抱き付いた。



「さて、ご飯にしましょうか!」



そのままネジは月冴を抱き上げて子ども用の椅子へ座らせる。


ネジとテンテン、二人で出来立ての料理を皿に盛り付けて食卓に並べて。


ネジは、「本当に幸せね」と不意に呟いたテンテンの頭をぽんぽんと撫でた。




なぜなぜ期
( 幸せの本当の意味に )
( 気付かされたのは自分の方 )

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突然三歳になったことには触れないでください。月冴くんに早く喋らせたかった(笑)





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