日向さんち。
□お出掛け
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九月に入ったにも関わらず暑さは全く和らぐ気配がなく、木ノ葉の里を太陽がジリジリと容赦なく照らし付ける昼過ぎ。
そんな暑さから逃れるように少しお洒落なカフェで一息ついているくの一が一人、とその腹の中にもう一人。
「あっついわね〜」
涼しい店内の大きな窓から外を見ると、通りすぎる人は皆額に汗を滲ませている。
「こんな暑い中でもネジは任務中なのね」
テンテンの独り言に返事をするかのように、グラスの中の氷がカランと音をたてた。
普段は腹の大きいテンテンだけでの外出はネジに禁じられているのだが、やはりどうしてもの場合は別。
暫く買い物に行かない間に冷蔵庫の中が見事に空になってしまったため、外へ出ざるを得ない状況だった。
買い物などという理由で既に決定している任務をネジがすっぽかせるはずもなく、かなり渋々ではあったが彼から了解を得ることができたのだ。
「ま、たまには二人で外出もいいもんね♪」
大体ネジは心配性すぎるのよ、と少し困ったように笑ってテンテンは腹を撫でた。
どんどん予定日は近付き、あとひと月ほどで我が子に会えると思うと楽しみで仕方がない。
性別はネジと相談して聞かないと決めていた。
「もうすぐ会えるのね…」
随分と長いこと共に過ごして来たまだ見ぬ我が子。
早くこの手に抱いて、顔を見て、たくさん名前を呼んでやりたい。
日に日に強くなるこの気持ちはネジもテンテンも同じで。
「早く会いたいなー」
「…さっきから独り言多くねえか」
突然、聞き覚えのある声が聞こえたのと同時に、テンテンの向かいの椅子が引かれる音。
「シカマル!」
「どーも」
「ちょ、ちょっと、何処から聞いてたのよ!って言うかこんなお店に男一人でいたの?」
「アンタがちょうど外見ながら暑いとかぼやいてた辺に涼みに入ってきただけだよ」
クツクツと喉の奥で笑いコーヒーを口にするシカマルは、また何処か大人びたようだった。
「完璧に最初から聞いてたんじゃない!もー、盗み聞きとは趣味悪いわねー」
「盗み聞きなんてめんどくせーことすっかよ。つーかいつもそんな大声で独り言言ってんのか?」
「独り言じゃないわよ、赤ちゃんと会話してたの!」
余裕のある表情のシカマルとムキになって返事をするテンテン。
これではどちらが歳上なのか分からないくらいで。
「もうあとひと月くらいで産まれんだろ」
「よく分かったわね」
「そんだけ腹でかくなってりゃ分かるっての。それに…、」
「それに?」
「待機所でネジが必死こいて名前考えてんの見たら誰でも分かんだろ」
テンテンの知らないネジの一面。
恐らくシカマルを含め誰もが知らなかったであろう彼の一面。
普段はクールな彼が、そんなに一生懸命に子どもの名前を考えているなんて。
「あははは!ネジったら、わざわざ待機所で考えなくてもいいのに」
「俺もその光景を初めて見た時は笑ったというか、引いたな」
「…でも、嬉しいかも。それだけ真剣に考えてるってことだもんね」
先程の子供のようなテンテンとは打って変わって、母親の顔付きになったのをシカマルは見逃さなかった。
シカマルはこの表情をよく知っている。
かけがえのない師の最愛の人も、同じような表情をするのだ。
「…親ってのは子どものことになると急に表情変えるもんだな」
「え?」
「何でもねーよ」
自分も親になる世代なのだと、ネジとテンテンを見ていると感じさせられる。
アスマを失った時に思ったことを改めて思う、もう守られる立場ではないと。
シカマルは立ち上がって机に二人分の代金を置いた。
「ちょっとシカマル、自分で払うからいいわよ」
「めんどくせーけど、出産祝いってことで」
「……お祝いにしては早いし、安すぎね」
お互いに小さく笑って、手をひらひらと振りながら店を出るシカマルを見送る。
「私達もそろそろ帰ろっか」
にこりと笑って腹に話し掛けて。
二人で帰ろう。
もうすぐあなたのお父さんも帰ってくる、あの家へ。
お出掛け
(こうして二人でお出掛け出来るのもあと少し)
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元気に産まれてきて、めんどくせーとは思うけど、お前の母ちゃんの独り言に付き合ってやってくれ。(シカマルside)