短編

□EVERYBODY HAS THE DEVIL ON INSIDEB
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そう言うと慣れた手つきで泡を切りながら液体をグラスに注いでいく。
「はい、お待たせしました。ジンジャーエールです。」
「あ、りがとう。」
接客スマイルで飲み物を渡すのは見事なものだった。笹雲さんを好きな男子が見たら見惚れてしまうんじゃないだろうか。
「バイトなの?」
「そうだよ。週に一回だけ、親には内緒でね。」
「へぇ。」
意外だ。すごく意外だ。ライブハウスでバイトってのも意外だし親に隠し事してるのも意外だ。
「親には塾に行ってることにしてるから話し合わせてね。」
「う、うん。」
君の親に会うことは無いと思う。
「なんで、呼んだの?」
「霧生くん、こういうの好きかなって思って。」
「いや、初めて。」
「そうなんだ。でも次のバンドは好きだと思うんだ。」
言われて指差したステージを見ると暗転した。
「時間通りに来てくれて良かった。」





「……すご…!」
再び照明が全体に点いた時に勝手に感想が出た。
「DEVILE MAINDはなかったけど、CRY6の曲がいくつかあったでしょ。どうだった?」
「迫力が、難しいことは言えないけど、迫力がすごかった。」
「フフっ!他には?」
「えっと、なんていうか引き込まれた。あんなに激しいのにちゃんとした形になってるっていうか。」
「すごいよね。たった四人であれだけのことやっちゃうんだから。」
「うん、初めてプロのライブ観たけど、こんなにすごいと思ってなかった。」
「プロじゃないよ?」
「へ?」
「プロじゃないよ。アマチュア。だってあの人達は高校生だよ。お金だって300円しか取ってないし。」
「…同じ、高校生……。」
なんかへこむ。
「すごく楽しそうに演奏するよね。きっと霧生くんも音を奏でることを本気で好きになったら二年後にあんな風になれるよ。」
「むぅ…。」
今まで本気で好きになったものって無い。あの人達が成りたい姿なのかも分からない。
そもそも、僕は成りたいものを考えたことが無かった。
「聴いてるだけで、良いかな。」
答えに困ったのでやんわり返す。
「えー!音楽やってる人好きなのに!」
そのセリフを学校で言ったら次の日に男子の半分がギター担いで登校しそうだ。
「ベースとか似合うと思うんだけどなぁ。」
「弾ける自分を想像出来ない。」
笹雲さんなら弾いてる姿を想像出来る。木目のやつとか似合いそう。
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