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□退魔師列伝 魔刃朱殺 第五話E
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もう、自らの力で立ち上がることさえ許されない。
ズシン、ズシンと音をたてて近づいて来る異形の化け物。すでに割合小柄だった樹舞生雪の面影は亡くなりつつあり、軌鋼より体は大きく禍々しくあった。
「グゥゥゥ――…。」
ゆっくりと顎(アギト)を開く奇迷羅(キマイラ)。そこから覗く牙は食欲の具現にしか見えなかった。
貪る。そう、相対する者に訴えかけている。


「ああぁっ!止めろ!止めてくれッ!!うわぁぁぁ……。」






路地裏に着いた時、未だかつて見たことのない化け物の後ろ姿を視認した。
全長は2メートルを超えるだろうか。それくらいの魔なら何度か見たことがある。
オカシイのはカタチだ。まるで統一性が無く、捻くれて湾曲して歪んでいる。だけど、その眼から伝わってくるモノはただ一つの感情。いや、欲求と言った方が正しいかもしれない。
そのケモノの頭と胴は獅子。右腕は羆。左腕は怪鳥。下半身は山羊で尾は狼。
確かに魔には今までの日常では考えられない姿ばかりだった。しかし、コレを見てしまったらどうというコトのないと思える。
およそこの世のモノではない。
常軌を逸したモノを見たとき古代の人々は神か悪魔と覚えただろう。
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