短編

□EVERYBODY HAS THE DEVIL ON INSIDEA
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あまり、眠れなかったように思える。
考え事をしていた。珍しく耽っていた。
一つのことに対して長く考えることのなかった僕が、一つのことだけ考えていた。
笹雲瞳(ササグモ・ヒトミ)、さんについて。
同じクラスの女子。容姿端麗、明朗快活、そして聡明。そんな言葉ばかりで形容される人間。いつも笑顔でみんなと接しているからクラスの中心で、男子の注目の的らしい。
そんな優等生に僕みたいな地味で目立たなくて他人と関わらない人間との接点なんて無かった。
あるとすればクラスメイトというくらい。
お互い、居ても居なくても変わらない関係だ。
それなのに昨日、彼女は僕に声をかけた。
優等生だからか、気まぐれだったのか、同じ音楽を聴いていたからなのか。僕には知るよしもない。
それだけでも同じような毎日を送っていた僕にとっては大きな変化だった。人と話すこと自体あまりない。ましてや相手が女子ならなおさらだ。
ただ、それだけではなかった。
美しい表情だった。
夕日に照らされた彼女の表情は、熱くも冷たくもない温度を感じさせない表情だった。
誰も見ていない時にそうなるのか、僕の存在に気づいた瞬間に笑顔の仮面を被った。
その、無機質とも感じ取れる顔が美しかった。
そして一言。
「あなたは人を殺したいと思ったことはありますか。」
僕がないと答えると更に一言。
「私はあるわ。」
意外というか、完全に思考の中に無かった言葉だった。
などと、また笹雲さんのことばかり考えていた。
本当に珍しい。こんなに個人に対して関心を持つのは。
たった数分間だけ日常と違ったからって僕まで変わってしまったのか。…なんとなく認めたくないけど。
考えてる間に教室に到着。
僕が登校する時間は早めに来る優等生達の後、大勢の普通の人達が来るちょっと前。あまり人目に付かず、且つ目立たない時間。
意識はしてないつもりだけどこの時間に登校するようになった。
教室の引き戸を開くといつもの優等生達。
たまに刺すように睨む委員長、いつも笑顔の笹雲さん、みんなに親切工藤くん、目付きが悪い刃内くん、爽やか笑顔の山田くん、他数名。
早く来てるからと言って優等生と決めつけていたりする。僕の勝手なイメージだ。みんな頭良さそうだし。
笹雲さんの席は廊下近くなので、教室に入るとすぐに見える。やはり人気者なので笹雲さんの席の周りに委員長とか他二名。
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