短編

□EVERYBODY HAS THE DEVIL ON INSIDEC
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ゾクゾクする。
背骨が一つ一つ震えてる様な快感の様な不快感の様な何とも言えない感覚が病み付きになりそうだ。
また見れた。
この、無表情。
常に笑顔ときっと周りの人間に疑われない彼女が、熱くも冷たくもない酷く機械的な表情をしている。
とても美しいと思う。
ずっと見ていたいと願う。
この十六年間に何かに熱中することのなかった僕が、強く惹かれる。
関心を持ったとしても直ぐに飽きる僕だけど、今回だけは分からない。
ただ、今の表情には微かに違う色が混じっているような…。
「そうね。友達もいない、知人も少ない貴方なら他言はしないでしょうね。」
また、背骨が鳴く。
表情と同じ温度の声に。
そんな声で普段なら言わないような人を傷つける言動。表情と一緒に性格まで変わってしまったのだろうか。それとも僕が傷つかないことが分かっているのだろうか。
「父親よ。」
「え…?」
「私が殺したいのは唯一人。実の父親よ。」
「…………。」
意外。……いや、彼女はいくらでも意外なことを言う。今さら意外なことは意外じゃない。
「人間が嫌いで誰でも何れでも殺したいとでも思った?」
「いや…。」
そんなことはない。笹雲さんのことは何も知らないけど、何となくそう思う。
きっと笹雲さんは真面目な人間で、そんな彼女でも殺したいと思ってしまう出来事があったのだろう。
これは、僕の幻想なのか。
「そんな、ことはない。」
「そろそろ帰ろっか!」
笹雲さんはいつもの笑顔になっていた。
「あ、うん。」
いつもの笑顔は誰にでも見せるもの。僕は嫌われたのか、笹雲さんを傷付けたのかも分からない。
「今日のことはクラスのみんなに内緒ね。」
今日のこと、というのはライブに行ったことだろうか。それとも…
「全部よ。」
「え?」
今、声だけ…。
「今日一日のこと、内緒ね。高校入ってから学校外で友達と会うの初めてだから。」
「友達…なの?」
「もし、霧生くんがそう思ってくれるなら。」
「じゃあ…友達でお願いします。」
「じゃあ、敬語はやめてね。」
そう言って彼女は明るく笑った。
少しだけ、申し訳ない気分になった。
それから、益体のない会話が途切れそうで途切れることなく別れるまで続いた。益体がないかどうかは僕は分かっていないけれど、きっとこういう当たり障りの無い会話のことを言うのだろう。
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