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□退魔師列伝 魔刃朱殺 第五話C
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「双形劫が会いたいと言っている。屋上まで一緒に来てくれ。」
そう言うと生雪は素直に来てくれた。途中、廊下や階段を歩いている時は会話が無かった。
生雪の心中はわからない。でも感情を隠そうとするヤツではないと思う。きっと複雑な気分なんだろう。
たまに思うのは、俺が無理矢理前に進めているんじゃないかということ。もしそうなら申し訳がない。
屋上に着いて、柵に体を預けると生雪が一言漏らした。
「ありがとな。」
「…気にすんなよ。大したことしてない。」
「いやいや、付き合ってもらってすげぇ助かったよ。」
そう言った生雪の顔は微かに沈んでいるように見えた。
「これからどうするのか知らないけど、協力できることがあるなら手伝うよ。」
「…ありがとう。」
その時、屋上の扉が開いた。
そこから出てきたのは、右目が白い瞳、左目が両儀の瞳の白髪の男だった。
「僕の名前は双形劫(フタナリ・コウ)。」
この言葉は俺たち二人に言った。次に生雪に正対した。
「君の父親は僕が殺した。」
何の恐れもなく、何の気負いもないように静かに言った。
「…すまなかった。」
そのまま両の膝と手を屋上の床についた。
「………………。」
生雪は何も言わない。
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